ライター。2019年6月加入。韮崎で働く人や会社を紹介するコーナー『ニラサキのシゴト』を主に担当。地元ではない韮崎に移り住んできた立場だからこそ見える『移住者視点』を率直に伝えることを大切にしている。1990年生まれ。妻と2歳児の息子を持つ。とても親ばか。
こんにちは!ライターのおしょうです。
突然ですが…
『ギネス記録』という言葉を耳にするとなんだかワクワクしてしまうのは、僕だけでしょうか?
子どものころ、ギネス記録を認定するテレビ番組などを見ると、「自分にも何か自慢できる記録がほしい!」と、お風呂に潜って息を止めてみたり、スイカの種を遠くに飛ばしてみたり、いろいろと挑戦してみたのを覚えています。(息を止めるギネス記録は22分22秒、スイカの種飛ばしは22.91メートルだそう…!)
大人になっても、そんなギネス記録への憧れを捨てきれない僕のもとへ、写真と共にこんな情報が寄せられました。
なんだこれー!!!で、でかい……!!!
情報を提供してくれたのは、にらレバを運営する『河原部社』のスタッフ。いとこが韮崎でクワガタを育てているとのこと。
ヨーロッパミヤマ?アクベシアヌス…?
昆虫シロウトの僕にはなんだかよく分からないけど、写真越しにもひしひしと伝わってくるこの圧倒的な存在感・・・!!!
しかも、憧れのギネス記録というじゃないか…。世界一大きなクワガタということでしょ?これは見に行くしかない!
ということで、韮崎でクワガタを飼育されているブリーダーさんを取材してきました!
ギネス記録となったクワガタ以外にも、「クワガタの聖地」と呼ばれてきた韮崎の自然環境の変化や、趣味を世界一まで極める中で大切にしてきた姿勢など、惹きつけられるような話をたくさん話していただきました。
「飼育レコード」更新までの経緯は?
「ここで育てている」という情報のとおり向かった先は……お洒落な洋食屋さん??????
実は、クワガタを飼育されている齊藤 巧さんは、韮崎駅から歩いて7分ほどのところにある、36年続く老舗洋食屋『カフェレスト サイトー』で日ごろは働いていらっしゃるとのこと。
お店の奥にある齊藤さんのご自宅で、クワガタを飼育されているそうです。
取材は店内で受けてくださいました。お店の中はこんな感じです。
迎え入れていただいた齊藤巧さんに、さっそくいくつか質問をしてみました。
(今回お顔の撮影はNGということでしたが、人柄の良さと知的さが雰囲気ににじみ出ているような素敵な方でした!ずっと話を聞いていたかった…!)
ギネス記録に認定されたクワガタの種類について、詳しく教えてもらえますか?正直、クワガタの知識が全然ないんですけど…
今回のクワガタは、「ヨーロッパミヤマ」と呼ばれるクワガタになります。
ただ、ヨーロッパミヤマクワガタと言っても、実はいくつか種類があるんです。僕が今回記録を更新したクワガタは、学名で言うと"ルカヌス ケルブス アクベシアヌス(Lucanus Cervus Akbesianus)"という名前のクワガタ。一般的にはアクベシアヌスと呼ばれています
ギネス記録は、どのような経緯で認定されたんですか?
記録は、東京中野区にある『むし社』という雑誌社に持ち込んで測定員の方に認定してもらいました。ちなみに、元々は『飼育ギネス』という呼び方だったのですが、僕が認定を受けた2017年から『飼育レコード』と名前を変えて呼ばれています。 でも、意味合いとしてはギネス記録とほとんど変わらないかも。実はクワガタの飼育というのは、外国ではあまり行われておらず、日本で一番大きなサイズであれば世界でもまず一番という感じなんです。
ずばり!クワガタ飼育の魅力とは!
もともと小さいころからクワガタが好きだったんですか?
うーん……多分?(笑) 好きなことって人と比べられないし、難しいですね。でも、友だちと韮崎にある林や森に入って夜中にクワガタを採集したりはしてましたよ。 その中でも『ヨーロッパミヤマ』という種に興味を持った一番の理由は、やっぱり、
世界のミヤマクワガタの中でも最大級に大きく飼育できる種だからです。オオクワガタ種で世界最大のものですら飼育レコードが95㎜であることと比べると、このヨーロッパミヤマの103.5㎜という記録がいかに大きいか分かりやすいかもしれません。
やっぱり記録の更新というのは、目標にしていたんですか?
長く続けているからには、やっぱり「トップを取りたい」「成果を出したい」という思いはもちろんありますね。 でも実は、最初から記録認定を受けようとはしていなかったんです。当時の最大記録より大きなサイズのクワガタも本当はいくつか飼育していたんだけれど、認定を受けようとは思っていなかった。
飼育レコードの認定を受けるようになったきっかけは、同じようにクワガタが好きな同級生が「専門誌に友人が載ってたら自慢できるから、認定受けてみてよ」と勧められたことだったんです(笑)
クワガタを飼育する環境の時代的な変化
クワガタのブリーダーを取り巻く変化についても聞いてみました。
今日来るまでに調べてみたんですけど、韮崎はかつて「クワガタの三大産地」「クワガタの聖地」とも呼ばれるすごい場所だったらしいですね。
その一方で、最近では、乱獲されたり自然環境が破壊されたりするせいでクワガタが捕れなくなっていると聞きます。齊藤さんはどう思われますか?
そうですね。僕は採集よりも自宅での飼育が好きだから詳しいことは言えませんけど・・・ たしかに、当時クワガタの多産地と呼ばれていたころには、農道を歩いてオオクワガタが横断しているのを目にすることもあるくらい、多くのクワガタがいたようです。それと比べれば、オオクワガタに限って言っても、生育に適した場所が減ってきているなと感じますね。
ひと昔前だったら「どこどこに行けば採れるよ」とオススメすることもできたんだろうけど、子どもたちが気軽に虫捕りに入れるような安全な場所は減っているのかもしれません。
飼育仲間については、変化を感じることはありますか? 昔と比べて、クワガタが好きな仲間の年齢層が下がってきているなと感じます。 1999年に外国産クワガタの輸入が解禁されたころ、クワガタ1体が数十万、数百万円する世界でした。簡単には手を出せないし、クワガタ飼育はある程度年配でお金持ちの人がやる趣味という感じでしたね。資金運用のための、いわゆる『財テク』として扱っている人もいました。 今は全体的に値段が下がってきたし、SNSで仲間を見つけやすくなったり虫を題材にしたゲームやアニメなどが人気になったりと、クワガタ飼育に気軽に興味を持てる環境になったなと感じます。
ひと昔前と比較して言うなら、より純粋に「好き」の気持ちで飼育を趣味にする若い人が増えたなという印象です。実際に、僕の周りでも10~20代中盤のクワガタ仲間は多いですよ。
距離や場所を越えて「好き」の思いでつながる仲間との関係
純粋な「好き」の気持ちで集まる仲間って、なんだか素敵ですね。 クワガタに限った話ではないですが、無理に誘ったわけではなく自然に集まってきた仲間こそ財産だと感じますね。
2016年からTwitterをやっていますが、2017年に飼育レコードを更新してから「こんなにか」と驚くほど反響があり、多くの仲間とつながりを持つようになりました。「飼育について教えてほしい」という連絡は今も毎日のようにきています。
東京、神奈川といった首都圏から頻繁に来てくれる仲間もいるし、遠く九州から足を運んでくれる仲間もいる。本当に好きな者同士でのつながりだから趣味に対しての熱量も近いし、仲間のことを良いなと思えるんです。 「本当に好きなことで集まった仲間とは距離なんて関係ないんだ」という気付きがありましたね。
SNSで共有されづらい『失敗の経験』の重要性
SNSを通じて情報が集められるようになって便利ですね
ネットやSNSの利用が広まったことで、例えばこれまで5年かけて習得していたものが3年で習得できるようになった側面はたしかにあると思います。 ただ、SNSって、成功のエピソードは伝わりやすいけれど、『失敗の経験』は共有されづらいんですよね。 クワガタは生き物だから、それぞれ体の形も違えば成長の速度も違う。これをやれば成功するというような『正解』というものが無い中で、現状一番良さそうなものを探っていかなきゃいけない。
そんなときには、『失敗の経験』こそ重要な情報だと思うんです。
なるほど・・・!たしかに、どうしても成功した話をしたくなっちゃいますもんね
僕は、17,18年間クワガタ飼育に向き合う中で、人よりたくさん失敗を繰り返してきたと思っています。多く積み上げてきた失敗の経験こそが、自分の一番の強みと言えるかもしれないですね。
じゃあ、ギネス記録を更新した今も、『正解』が分かったというわけでは・・・ それはもう、全然「分かってない」ですね(笑) 例えば僕は、クワガタの住み家となる『発酵マット』と呼ばれる材料を、より長持ちするように自作しているのですが、それだって今も、さまざまな失敗を積み重ねながら試行錯誤を繰り返している最中です。 SNSやネットはたしかにすごく便利なんだけど、自分で失敗してみて気付くことの中に「自分だけの強み」となるものがあるんじゃないかと思いますね。
失敗の中に強みが生まれる・・・世の中が便利になっていっても大切なことですね。 今後の目標を教えてください。
アクベシアヌスは、理論的には108㎜くらいまで大きく飼育できるのではと考えています。
今後もやっていくからには、やっぱり記録の更新は意識していますね。
これからの活躍も応援してます!なんだかクワガタが好きになってきました!
今日は、ありがとうございました。
趣味に向き合う姿勢から見えてくる想い
最初は正直、ギネス記録へのミーハーな興味と勢いで始まったクワガタ取材企画でしたが、好きなことへ一つ一つ真摯に向き合う齊藤さんの姿勢を通じて、「好き」でつながる仲間の大切さや、「好き」をどう極めていくかといったテーマでお話を聞かせてもらいました。(ずっと聞いていたかった…!!)
齊藤さんは現在もTwitterをされており、その理由として「発信するとは、名刺を渡すようなもの。自分はこれくらいのレベルの知識があるということを発信することで、相手が理解してくれたり、自分と近い仲間が集まってきたりする」とお話されていました。
『発信とは名刺をわたすこと』
僕たちにらレバ編集部にとっても、すごく貴重な言葉を教えてもらいました。
「財産」と呼べるような仲間とのつながりを全国中に持つ齊藤さんのように、市内市外という距離を越え、「韮崎が好き」という想いで集まる財産のような「韮崎仲間」が集まってくる『名刺』を渡せるように情報発信を続けていきたいと思います!
『カフェレスト サイトー』の基本情報
齊藤さんが普段いらっしゃる『カフェレスト サイトー』は、韮崎市富士見で36年続く老舗の洋食屋さん。肉質に応じて一つ一つ調理方法を調整しながら丁寧に焼き上げるハンバーグが看板メニューのお店です。
お客さんが標本を見ることはできるか尋ねたところ、
虫の苦手な方もいらっしゃるのでタイミング次第になってしまいますが、ほかにお客様のいない場合であればお見せすることができますよ。飼育レコードの認定証は、いつでもOKです
とお答えいただきました。
(あの大迫力のサイズは、ぜひ一度、見てほしいです…!)
地元で長く愛されてきたおいしい料理はもちろんのこと、今回のクワガタに興味を持たれた方もぜひ足を運んでくださいね!
カフェレスト サイトー
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- 住所 :山梨県韮崎市富士見2-11-11
- 営業時間:11:30 - 21:30(ラストオーダー20:20)
- 電話 :0551-22-8198
- 休業日 :水、第3木曜