顧客の要求する最高品質の製品を創出し、利益のために品質を犠牲にすることはしない
創業以来こだわりと信念を持って貫いてきた製造方針を、常務の齋藤嗣樹さんはあらためて力強く口にします。
ニラサキのシゴト第10回は、龍岡町・御勅使工業団地に位置し、甘味料など食品添加物の製造を手掛ける「ツルヤ化成工業株式会社」。
顧客や消費者の立場に立って食の安全・安心を最優先に考えてきた会社の理念や、それを実践する若手社員の方の様子をうかがいました。
また、実際に工場内を見学しながら、「徹底した衛生管理」が体現されている現場の様子や、「意図的に人間の手を取り入れることで発揮しているツルヤ化成独自の強み」についてもお聞きしてきました。
- 事業内容:甘味料を中心とした食品添加物等の製造及び販売
- 設立:1949年
- 所在地:韮崎市龍岡町下條南割995-400(本社工場) ほか、神奈川県相模原市にも
- 従業員数:本社工場には約90名が所属(パート職員等含む)
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ライター。2019年6月加入。韮崎で働く人や会社を紹介するコーナー『ニラサキのシゴト』を主に担当。地元ではない韮崎に移り住んできた立場だからこそ見える『移住者視点』を率直に伝えることを大切にしている。1990年生まれ。妻と2歳児の息子を持つ。とても親ばか。
会社について
ツルヤ化成工業ってどんな会社?
常務の齋藤嗣樹さんにお話をお伺いしました。
————本日はよろしくお願いします。はじめに、ツルヤ化成さんがどのような会社か教えてください。
———今と違って砂糖が希少で高価な時代だったからですね。
その際、砂糖の何百倍もの甘みがあってサジ加減が難しかった甘味料を「薄める」ということを行ったのですが、それを世界で初めて製品化したのが当社なのだと聞いています。
———世界で初めて!難しい技術だったんですね。
———なるほど。今ではさまざまな製品に広く活用されている甘味料ですが、改良の歴史があったんですね。
現在は、甘味料の製造を中心に、品質保持剤、健康食品、調味料などさまざまな製品を手掛けています。裏方で活躍する食品添加物は、ふだんなかなか目にされないかと思いますが、当社の製品が使用されている食品の中には、みなさんがよく知っているものも多いのではないでしょうか。
多様な要望に柔軟に応えられる『少量多品種』製造が強み
———ツルヤ化成工業の特徴や、独自の強みを教えてください。
通常、甘味料・食品添加物は複数の成分を組み合わせてつくられますが、現在、当社で組み合わせられる製品は、データ上2000ほど。メーカーが品質保証をして販売している甘味料の種類で言えば、日本で一番多くの種類を揃えています。さまざまな種類の製品を少量からでも製造できることが当社の強みではないでしょうか。
———2000種類も!さらにそれを組み合わせて作るとなると、膨大なレシピになりますね。
———お客さんの要望にこまやかに応えられるところが御社の強みというわけですね。
———製造の方法や種類によっては、すべて機械化してしまえば良いということではないんですね。
しかし、わたしたちが一番に追求していることは、「お客様の要望に最大限近づけた製品を、最高品質でつくること」なんです。
だからこそ、一様に機械化を進めるのではなく、人間の手作業の優れている部分も取り入れながら、お客様に幅広い選択肢を提案できる『少量多品種』という製造方法を続けてきているんです。
———お客さんの要望に応えることに、とことんこだわられているんですね。機械化するメリット、あえて人の手を入れるメリットの両方をうまく組み合わせられていることが、ツルヤ化成の強みと言えそうですね。
創業以来貫いてきた理念「利益のために品質を犠牲にすることはしない」
———ツルヤ化成が大切にされていることはどんなことですか?
『当社は顧客の要求する最高品質の製品を創出し、利益のために品質を犠牲にすることはしない」
という製造方針です。
- そもそも異常が起こらないための厳密な『製造管理』
- 製品に対する精密な『社内検査』
- 第三者の専門機関による『外部検査と認証』
という工程を必ずクリアするようにしています。
———ホームページを拝見していても、特に「食品の安全性」や「お客様の安心」を大切に考えられている会社だなという印象でした。
第三者の検査機関による検査を受けるためには月に数百万円という大きなコストがかかっていますが、お客様に私たちの製品を安心して使ってもらうために、品質保証にはこだわりを貫いています。
———「利益のために品質を犠牲にすることはしない」という製造方針が、まさに体現されていますね。
―――これだけ徹底した安全管理がされていると安心ですね。
つまり、わたしたち自身が安全に製造するだけでなく、その製造現場を見ていないお客様にも「この製品は安全だ」と安心してもらう必要があるということです。
———なるほど。安心してもらうためには具体的にどのようなことが必要なのでしょうか?
当社の工場は、2002年には農水省が定める『JAS』*の認定を、2004年には日本食品添加物協会が定める『食添GMP』*の認定を受け、以降、年に1回検査機関による監査を受けて更新しています。昨年は、社内の検査・分析機器を厚労省が設定する『HACCP』*に沿うものに更新しました。
———安全性を公正な認証によって知ることができるから、お客様はさらに安心ですね。「安全」であるだけでなく「安全だと思えることが大切だ」という話がよく分かりました。
今後について
『ハラール調味料』の開発に挑戦
———70年以上の歴史がある一方で、HPからは、「新しい挑戦をしている企業だな」という印象も受けました。現在挑戦していることや、この先目指している目標があれば教えてください。
———ハラール・・・?初耳です。
———考えたこともなかったですが、僕たちが当たり前のように使っている食材に不安を感じている人たちもいるんですね。国際的で、多くの人々の暮らしを明るくできそうな挑戦だなと、聞いていてワクワクします。
受け入れてもらえたことへの恩返しを
———韮崎市について考えていることや思いはありますか?
———以前、僕たち河原部社(にらレバを運営するNPO)が開催したキャリア教育イベントの際も、パネリストとしてご協力いただきましたよね。
———そこにはどういった思いがあったのでしょうか。
一緒に働く仲間に求めるのは『設計する力』
———これからも御社が活躍していく上で、「こんな人物に来てほしい」と期待する人物像はありますか?
当社で働く方々には、会社でしっかり働く時間も大切にしてほしいですが、同時に、プライベートの時間を充実させたり思いっきり楽しむことも大切にしてほしいと考えています。
今やるべき仕事とやりたいことを両立させるためには、「いつまでに、何を、どれだけやるか」を決めて実行できる力、つまり、『設計力』が不可欠なんです。
———自分自身の生き方を、自分で決めるということですね。
上司や先輩から受けた仕事に対して、言われたままただ漫然と取り組むのと、「いつまでに、何を、どれだけやればいいのか」と自分で進め方を設計していくのとでは、大きく違ってきますよね。
そうやって、自分自身の時間や生き方を『設計』できる人と仲間として働けたら嬉しいですし、当社の社員が仕事を通じて『設計力』を磨いていくことをサポートしていきたいとも思います。
―――仕事の中で『設計力』を身につけることが、社員さん自らの人生を設計していく力にもつながっていく好循環が素敵ですね!
次に、実際に製造現場で働かれている社員の方からもお話をうかがわせてください。
ツルヤ化成で働く若手社員の様子
若手を代表してインタビューに答えてくださったのは小澤郁省(いくみ)さん。
弱冠24歳ながら、包装フロアの主任として約30名を束ね、現場の指揮や指導にあたられています。
韮崎出身で、東京・茨城で他業界の仕事を経験された後、韮崎に戻ってこられたという小澤さんに、若手社員さんの視点から見るツルヤ化成工業の特色や、地元企業で働く様子について教えていただきました。
30名を統率するフロア主任を担当
―――小澤さんは、ふだんどのような業務をされているんでしょうか?
―――24歳という若さで30名もまとめてらっしゃって、素晴らしい活躍ですね!
―――普段から自分の働きをきちんと評価してくれていて、その上で「任せる」と言ってもらえると、一層嬉しいですよね。
―――日々の業務の中では、どんなことを大切にされていますか?
具体的には、常務のお話の中にもあったように、「クレームゼロ」を製造現場の合言葉にして、みなさんが口にする食品の中に異物混入などが決して起きないよう、細心の注意を傾けて製造にあたっています
―――頼もしいですね。反対に、責任あるポジションの中で、苦労はありませんか?
でも、そんな日は、「地元で働いていて良かった!」と気が付くときでもあるんです。
―――どういう意味でしょうか?
その思いが一つのきっかけで、地元山梨に戻ることを考えたんです。
―――地元に戻ってきた後、どのような違いがありましたか?
その日大変なことがあっても、友人や家族と会って楽しんでいるうちに発散されるから、ストレスを溜めこむということはなくなりました。それは地元で働く大きなメリットだなと、実体験から感じていますね。地元に帰ってきてよかったです。
―――素敵なお話が聞けてよかったです。これからも小澤さんが活躍の場を広げていくのがとても楽しみです!
工場内を見学
最後に、製造部の市村裕二さんのご案内の元、工場内を見学させていただきました。
機械が速く均質につくり、人間が柔軟につくる
材料はエレベータで3階に運ばれ、その後、次の製造工程をたどります。
材料は、『V型混合機』という機械を使ってぐるぐると混ぜ合わされます。Vの形状に沿って中の材料が動くので、短い時間で、均一に材料を混ぜることができます。
スピーディかつ均質的に作るのが得意な機械を取り入れる一方で、粉の計量や包装作業を行う1階包装室では、作業員の方の「人間の目」「人間の手」が多く取り入れられていました。
失礼を承知で「機械の方が速くないんですか?」と市村さんにお聞きしてみたところ、
種類や量を柔軟に変えて作業するのは、今でも人間のほうが圧倒的に速いんですよね。
おおまかな量をまず人が測って、そのあと機械が精密に調整したり確認したりする。
人間と機械の長所を組み合わせることによって、速くて正確、さらに柔軟に製造することができるんです
と、機械と手作業のそれぞれの長所についてお話しいただきました。
毎日1時間半かけて清掃
見学した夕方4時ごろには、ほとんどの機械が稼働を終えて洗浄中でした。毎日1時間~1時間半ほど時間をかけて、丁寧に清掃・機械洗浄を行っているそうです。
誰ひとり手を抜かず、隅々までピカピカにきれいにしている様子から、徹底した衛生管理・安全意識の意識が製造現場の一人ひとりにも行き渡っていることを、強く感じ取れました。
まとめ
今回は、食品添加物などの製造を手掛ける《ツルヤ化成工業株式会社》を取材しました。
取材を通じてもっとも印象深く感じたことは、「信用性の高さ」です。
「良いものを作る」と目標を立てることは簡単ですが、それを実行すること、実行し続けることは、言葉で言うほどに簡単なことではないはずです。
創業以来72年間、「お客様が求める最高品質」を妥協せず常に第一に追求し続け、信念を貫くために必要なことを一つ一つ着実に積み重ねてきた姿勢に、企業としての信頼性の高さを強く感じました。
また、日々フロア主任として製造現場に立たれている小澤さんが「クレームゼロ」を目標に安全管理を徹底していると話されていたことや、工場内の隅々まで清掃されている従業員の方々の様子から、品質や安全への意識が現場にも行き届いていることを肌で感じました。
甘味料や食品添加物は、身近で使われているものでありながら、あまりよく知らないで口にしているという方も少なくないのではないかと思います。また、どのように製造されているかを目にする機会も少ないものです。
品質に妥協せず、顧客の要望や信用に対して誠実に真摯に向き合うツルヤ化成さんの考え方や製造の様子を実際に見てみたことで、わたしたちが当たり前のように受けられている「食の安全」を支えてくれている企業にあらためて感謝する機会となりました。
当時は戦後間もない時期でしたので、砂糖の代わりに甘みをつける食材として、甘味料は重宝していたそうです。