山梨にやってきて、もう半年になるらしい。
”らしい”という言葉を使いたくなるのは、半年という時間をまだ実感できていないからなのか、あるいは、あまりの心地よさに月日の感覚を忘れてしまっているからなのだろうか。
仕事と生活のリズムが整って暮らせているからこそ、指折り数えて時間を気にすることがなくなったのかもしれない。
そういえば、以前に『ライフワークバランス』という言葉が流行っていたように思う。仕事と生活の調和を目指すこの言葉は、移住という選択肢とどこかで結びついているのではないだろうか。
そんなことを考えながら、先日行った移住体験イベントを振り返りつつ、この文章を書きはじめることにした。
目次
ちょうどいい暮らし
地方へ移住することが少しずつ流行りはじめているようだ。
未曾有の感染症が流行したことや、テレワークやフリーランスといった働き方が普及していきている時代だから、自分の居場所を制限せずに働くことができるようになってきたことが理由のひとつなのかもしれない。
だからこそ、暮らしと仕事を両立しながら、自分にとっての『ちょうど良さ』について真剣に考え、求めるようになってきたのだろう。
過度に何かを求めたりせず、ちょうどいい分量やバランスが幸福であることを知っているからこそ、地球のことを考えてごみを減らしたりする。過度に働いて生計を立てることを生活とするのではなく、自分にとっての心地よい生き方を求めて地方に移住をしたりする。
都会での暮らしにどこか違和感を抱きはじめた人は以前からいたのかもしれないが、それが当たり前に認められる社会へと、少しずつ変わってきているのではないだろうか。
そういう時代だからこそ、地域に目を向ける人が増えているのかもしれない。また、地域の不便さというのは必ずしも否定的な要素でなく、わざわざ足を運ぶということ、わざわざ時間をかけるということに価値が生まれる。
季節の変化や非効率なことに目を向け、その営みを享受できる人はきっと、どんな田舎でも楽しく過ごすことができるだろう。どちらの選択が正しいというのではなく、移住という選択肢が一過性に終わらず、これからも続いていけばいいなと思う。
移住体験ツアーで感じた人の繋がり
つい先日、「韮崎市 移住体験ツアー」というイベントを開催した。
地域に移住する人がどんどんと増えている一方で、高齢化が進み、総人口は徐々に減っていく地域が増えていのが現状である。韮崎市もその例に漏れることなく、人口は年々少しずつ減少の一途をたどっている。
少しでも韮崎という街に興味を持ってもらい、街との繋がりを作るきっかけになればいいなという想いから、今回のイベントを開催することになったのだ。
4年ほど前にリノベーションをしたアメリカヤができたことをきっかけに、韮崎駅前周辺のエリアは飲食店で賑わいを見せるようになってきた。
東京からの移住者も多く、新規で事業をされることも珍しくない。カフェやコーヒー屋、居酒屋にクラフトビールのお店、最近ではおいしいピザ屋も新たにオープンした。そうしたお店を巡っていき、物件を見つけたきっかけなどを含めて、地域に移住してきた経緯についてお話を伺うことにした。
イベントは盛況で、約15名がこのイベントのためにわざわざ韮崎に足を運んでくださった。東京や神奈川を中心に、近くでは山梨の南アルプス市から、遠いところでは福岡からお越しの人もいた。
空家をリノベーションした事例を参考にしたいという人や、先輩移住者の声を現地で聞きたいといった人も多く、移動中もいろんな質問が飛び交っていた。
イベントの後半では、みんなで食事を摂り、参加してくださった人に向けて、街の魅力についてお話をすることに。市長も足を運んでくださって、韮崎の魅力やこれからの展望などのお話をしてくださった。
僕はというと、まだこの地域に移住してから半年が経とうとしている頃ではあるが、先輩移住者として皆さんに街での暮らしについてお話をすることになっていた。まだまだ新参移住者の気持ちでいた自分にとって、もう先輩になっていたことが、とても驚きであった。
魅力と可能性を秘めた街
韮崎の街には魅力が豊富にあるのに、まだまだ、その良さがしっかりと伝わっていないと、個人的には思っている。
辺りにはうつくしい山々が広がり、登山客にも人気のスポットである。甲府市や北杜市にも近く、大きなスーパーやチェーン店が多くあり不便を感じることもない。
ノーベル医学・生理学賞を受賞された大村博士ゆかりの地であり、博士が設立された美術館や温泉も観光地として賑わっている。
また、サッカーで有名な地域でもあり、韮崎高校は元サッカー日本代表の中田英寿の母校でもあるらしい。お水がおいしいからこそお米などの農作物も豊富であり、自然にも恵まれているのだ。
わに塚の大きな桜は推定樹齢約330年とも言われていて、春になれば多くの人で賑わい、1967年に建てられたヴィンテージビルアメリカヤは、いまでは韮崎のランドマークにもなっている。
誇るべきものが数多くある一方で、まだまだ気づけていない街の魅力はたくさんあるのではないだろうか。
多くの可能性を秘めているこの韮崎という街は、これからも注目を浴びる地域となっていくのではないかと、個人的には思っている。だからこそ、この地域でまちづくりという仕事に関わることができてよかった。
このイベントを通して改めてそんな魅力を再発見しつつ、街を巡りながら、これからも地域のことをより深く知っていきたいと思えたのだった。参加してくださったみなさんも、最後には拍手が起きるほどに楽しんでいただけたようだ。
韮崎に移住をするかどうかに関わらず、今回できたご縁を大切に、これからもどこかで繋がりを持って貰えたら嬉しいと思う。