「幸せを循環させ自然と共存できるまち」|#2 今井和華子さん、ネイトさん夫妻

茅ヶ岳山麓に広がる、ぶどうの名産地として知られる穂坂町。四方を雄大な自然に囲まれ、鳥のさえずりや虫の鳴き声が心地いい場所。のどかなこのまちに佇む一軒家に移住して来た、新婚夫婦がいる。

今回の韮崎拠点人は、太陽のように明るい笑顔がキュートな今井和華子さんと、穏やかで柔らかい雰囲気のネイトさん夫婦だ

和華子さんは、英語・スペイン語の個人レッスンや、生活クラブの消費材配達員をする傍ら、休日は韮崎オーガニックのメンバーとして農業を学ぶ日々。

夫のネイトさんは、東京にある外資系企業のプロジェクトコーディネーターとして、韮崎でリモートワークをしながら、和華子さんをサポートしている。

国境を超えて様々な分野で活躍している2人が見つけた、韮崎の暮らしや、少し先の未来について聞いてみた

夫婦が「田舎暮らし」を決めた理由

大学の「留学生寮」で運命の出会い

和やかな雰囲気に包まれている「おしどり夫婦」という言葉がよく似合う和華子さんとネイトさん。2人が出会ったのは、大学生時代。

飾らない自分でいられる関係が心地よくてお互い「この人しかいない!」と確信。じっくり愛を育み、2019年9月に結婚し夫婦となった。

大学生時代の2人。仲間たちと富士登山にチャレンジ!

5年間に渡り、ジャパンラグビーのトップチームで専属通訳として活躍していたネイトさんの日本語は、とても流暢でテンポが良い。

そんな、ネイトさんが日本の文化に興味を持ったきっかけは、意外にも「ざる蕎麦」だったという。

「小学3年生の時の担任の先生が日系アメリカ人の方で、生徒に日本の文化を紹介するため、ざる蕎麦を振舞ってくれたんです。それが、とても美味しくて。
あとで、自分なりに日本のことを調べたら、ドラゴンボールもサムライも…私が好きなもの全部ジャパンじゃん!って興奮したことを今でも覚えています」

その後、ネイトさんは「日本語をしっかり覚えたいなら日本に行って学んできなさい」と両親からの後押しもあり留学を決意。

生涯の伴侶となる和華子さんと出会ったのは、大学の留学生学生寮。住み込みでスタッフをしていた和華子さんに一目惚れしたと、ネイトさんは、はにかんだ。

ざる蕎麦がなかったらネイト日本にいないよね」「ざる蕎麦に感謝だね」といった、掛け合いがなんとも微笑ましい。

「自然と共に生きる暮らし」が人間らしい

千葉県浦安市出身の和華子さんが、近い将来「地方に移住したい」と考えるようになったのは、大学を卒業し、青年海外協力隊としてペルーに派遣されていた頃。スペイン語が思うように話せず、ホームシックになったことがきっかけだった。

「異なる文化に戸惑い自分の殻にこもってしまって。そんな時、海辺や森で自然を感じたり、動物とふれあったり、自然の雄大さ寛大さに触れていく内に少しずつ心が癒されたんです。その時、『言葉が話せなくても、このままでいいんだ』って吹っ切れたんですよね

また、和華子さんが「自然の一部になって働きたい」と考えるようになったのも、ちょうどこの頃だという。

「現代人は、文化や科学の発展とともに人間本来の生活から離れてしまっているような気がして。

自然と共存し、自然のサイクルに乗っかることで人間らしさが高まり、自然に対してもっと優しく生きられるようになると思いました。漠然と、いつかは自然と共に生きられる環境に身を置きたいと思っていました」

カリフォルニア州出身のネイトさんもまた、幼い頃から自然が身近にある生活をしたいと思っていた。和華子さんとの未来をイメージした時、「いつかは2人で自然と共に生きる暮らしをしたい」と、ぼんやり考えたそうだ。

移住者と若者が暮らしやすいまち

決め手は、人との繋がりと雄大な自然

移住の転機となったのは2020年4月。2人はCBDオイルや健康食品などを日本に輸入するため会社を設立し、渡米する予定だったという。

しかし、新型コロナウィルスのあおりを受けて、先々の予定が総じてキャンセルに。仕事を辞め、住む場所も引き払うなど、起業の準備を整えていた2人のプランは一度白紙となった。

話し合いの末、「帰国後は、日本の田舎に住みたい」と考えていた予定を前倒しして、移住する土地を探し始めたという。

夫婦の好きが詰まった自宅オフィス。

時間的にあまり余裕がない中、移住相談のため日本各地の市区町村とコンタクトを取る日々。和華子さんは「韮崎を選んだ理由は、韮崎市役所の担当してくださった方の対応がとても丁寧で好印象だったから」と話す。

続けて「色々な空き家バンクを探していたんだけど、グッドタイミングで、この家の情報が出てきて、2人で『ここやばいね』って興奮したんです」とネイトさん。

2人は、すぐに市へ問い合わせ現地を訪れた。「豊かな自然で溢れ空気が澄んでいて、実家の浦安にも2時間弱で帰れるアクセスの良さがちょうどいい」と、その日の内に、ここに住むと決めた。そんなフットワークの軽さと決断が潔い。

「自分らしさ」を引き出してくれる場所

2人にとって、韮崎での暮らしは、都会のような華やかさはないけれど、壮大な自然と、人と人との繋がりを感じられる幸せな日々。また、移住者や若者が溶け込みやすい「コミュニティ」や「環境」が整っている点も韮崎の魅力だという。

ご近所さんは、自身の畑で採れた野菜をたくさん持って来てくれる気さくな方ばかり。おまけに、2人の家の庭にある畑の様子をみて、上手に作物を育てるコツを教えてくれる、アドバイザー的存在でもある。

「韮崎の人たちは、移住して来た私たちのことを優しく見守ってくれて、心から応援してくれている。このまちで暮らせている私たちは本当に幸せだと思う」とネイトさん。

自宅の庭で家庭菜園を楽しんでいる。

和華子さんもまた、移住してから以前よりも自分らしく生きられるようになったという。
「韮崎では、会う人会う人が『私を私』として見てくださって、偽らなくていい。このまちは、『自分のいいところを引き出してくれる場所』なんだと思います。今では、好きな自分を思う存分解放しています」とにっこり。

また、韮崎というまちの魅力を、もっと多くの人に知ってもらいたいと続ける。
「都会で生活していると、無理をしたり、周りに合わせたり…自分の気持ちを自由に表現できなくて窮屈な思いをしている人がたくさんいると思うんです。

都会で疲れた人にこそ、田舎での暮らしや自然の豊かさを全身で感じてリフレッシュしてもらいたいですね」

「結果的に、韮崎に来て大正解だったね」と、2人は満面の笑顔で、韮崎での日々を振り返る。

2人の夢と韮崎の未来

韮崎の「農業と伝統」を守り伝える

「満点の星空を見たり、カエルやセミといった生き物の声を聞けたり、季節によって植物の成長を感じたり…五感で自然を感じられるところがとても魅力的です」とネイトさん。

2人が立ち上げた合同会社TASKのテーマは「人間らしさ」「自然との共存」。韮崎は、まさに「人間と地球が共存することの大切さ」を感じさせられる場所だ。

お気に入りの場所は近所にある「神明神社」

日本の農業の発展や自給自足な生活に関心のある2人が、将来的に事業の柱にしていきたいと考えているのは「麻」。いずれは、栽培、商品開発・加工から販売まで一貫して責任を持つ会社を目指しているという。

麻は成長が早く、土壌改善にも役立ち、農薬が不要な植物。加えて、生活に必要な衣・食にもなるなど、とてもエコな存在なんです。
何よりも、神道など日本の伝統や文化に繋がりが深いものであり、それを守り伝えたいという気持ちが強くて」と和華子さん。

また、和華子さんは、古くから韮崎にある伝統や文化についての理解を深めたいという。「風習を煙たがらずに、なぜ、これまで行われていたのかを知り継承していくことが、私たち次世代の役割だと思っています

新しい村文化で「幸せの循環を」

2人は、昔ながらの日本の暮らしを保ちつつ、新しい事業を育てていける土壌が整っている韮崎だからこそ、若者離れが進んでいる農業を立て直すことができると、確信している。

「私たちは、日本の農業を守りたいと思っています。農作物を韮崎の人が作り、韮崎の人が消費する『地消地産』のサイクルを作りながら、日本人が大切にしてきた村文化を新しい形で波及させたいです」と和華子さん。

そのためには、誰かがやらないといけない、誰かがやるべき、という視点で考えるのではなく、ひとり一人が誇りを持って働ける環境を整えることが大切だと、ネイトさんは語ります。

『自分にとって、とても価値がある仕事なんだ』と思える環境、自分の夢を追いかけられるほどの賃金やベネフィットが与えられるシステムを整えれば、『農業をやりたい』『韮崎で暮らしたい』と考える若者たちが増えるのではないでしょうか

同時に、次世代が暮らしやすい少し先の未来を見据えた環境を整えることも大切だと付け加える。

「このまちに暮らす子供たちが、成長していく過程で『どこで遊び、どんな場所でどのような時間を過ごすのか』を考えたまち作りや環境を整えていく必要があると思います。

私たちの世代が、韮崎というまちに『幸せな循環』を生み出していくことが大切なのではないでしょうか」

だから、このまちに決めた

終始、このまちの魅力や暮らしている人々への想いを丁寧に言葉にしてくれた和華子さんとネイトさん。

「とにかく韮崎の人たちは優しくて、自然も素晴らしくて、充実した移住生活が送れています。移住者だからこその経験や想いを、なんらかの形で発信し、韮崎に恩返ししたいと考えています」と熱く語る2人の眼差しは優しくて、とても力強かった。

  • 和華子さん&ネイトさんはインスタで「韮崎での暮らし」を発信中!

「夫妻の活動が気になる」「話を聞いてみたい」など、質問のある方は、DMを送ってコンタクトをとってみてはいかがだろうか。

和華子さん → @wakako_weekly
ネイトさん → @ngi_weekly

 

今井和華子(いまいわかこ)&ネイト夫妻

夫婦で合同会社TASKを設立。2020年6月、雄大な自然と暮らす人々の温かさに触れて韮崎に移住を決意。

和華子さん:1991年生まれ。千葉県浦安市出身。英語・スペイン語の個人レッスンや、生活クラブの消費材配達員をする傍ら、韮崎オーガニックで農業を学ぶ。

ネイトさん:1992年生まれ。カリフォルニア州サンノゼ出身。東京にある外資系企業のプロジェクトコーディネーターとして、韮崎でリモートワーク中。山梨県在住の通訳者で、クリーンファイターズ山梨に所属するラグビー選手でもある。