リレー記事Vol.006『イワシタユタカと韮崎と未来』

わたしと韮崎と未来

はじめまして、韮崎市本町でマンドリンとギターの工房を営んでいる岩下 寛といいます。

もしかすると運転中に姿を見かけたことがあるという方もいらっしゃるかもしれませんね。

僕は1991年に神奈川県相模原市で生まれ、5歳になる頃に父の仕事の都合で南アルプス市(旧白根町)に引っ越してきました。

韮崎市は父の出身地なので神奈川に住んでいた頃から時々泊まりに来ていましたし、山梨に来てからはお年玉を握りしめてイトーヨーカドーのおもちゃ売り場へ行ったりもしていたので何かと思い出のある土地です。

まさかそこに移り住み、楽器工房を始めることになるとは思ってもいませんでしたが…。

岩下少年ギターにハマる

自己紹介も兼ねて、僕が楽器を作るようになるまでのことを少しお話ししましょう。

初めて自分のギターを持ったのは中学2年の12月。いわゆるクリスマスプレゼントとしてエレキギターの初心者セットを親に頼み込んで買ってもらいました。

家には父親のアコースティックギターがありましたが、当時の僕にとってはエレキギターこそが憧れの楽器だったのです。

それからというものの、まるで取り憑かれでもしたかのように高校卒業までギターばっかり弾いていました。

部活は軽音部で、ギター教室にも通わせてもらい、用事のない休みの日にはそれこそ朝から晩まで。

そして製作へ…

ある程度弾けるようになると構造や機材にも興味が出てくるもので、雑誌を読んだり色々調べるようになりました。

そんなある日、個人経営のギター工房の存在を知ったのです。

ギターは工場で機械で作るものだと思っていた僕にとって、それはとても衝撃的な出来事でした。小学生の頃プラモデルが好きだった僕がギター製作に惹かれたのは、今思えば自然な流れだったのかもしれません。

長期休みのバイト代や小遣いを使い、高校2年の時にエレキギターのキットを購入して組み立てました。

当時キットでつくったエレキギター

これが僕にとっての楽器製作の始まりです。

どうにか音楽の仕事に就きたいと考えた僕は進路をギター製作の専門学校に決め、在学中に現在メインで製作しているフラットマンドリンという楽器に出会うのでした。

韮崎で工房を開いた理由

専門学校の2年間はあっという間で、すぐに進路を考える時期になりました。

僕はと言うと、2年生の時に授業外で製作したキットのフラットマンドリン(とは言え中々の難しさでした…。)を切っ掛けに楽器店さんから一本オーダーを頂いていたので、とにかく完成させようと就活もせず山梨へと戻ってきました。

その後は自分でオーダーも受けつつ、縁あって甲府市の坂田ギターズという工房で4年ほどお世話になり、25歳になる頃には独立を意識するようになりました。

いざ独立するとなると考えたり勉強しなきゃいけないことが沢山出てきたわけですが、中でもまず重要だったのはどこに工房を構えるかということでした。

基本的には毎日お客さんが訪ねてくるような仕事ではありませんが、遠方からでもアクセスしやすいように”駅の近くであること”や、”空き店舗がありそうな場所”でなおかつ”木工機械の音がしても大丈夫そう”といった条件を考えた時に思い浮かんだのが韮崎の駅周辺でした。

決め手としては起業の際に補助金を利用できたので心強かったことがありますが、また別の理由もあります。

1つは音楽はどのように生まれるのかと考えた時に、人々の暮らしがキーワードになっているように感じたことです。

独立するまでは旧白根町の住宅地と田畑が混在する場所に住んでいたので、少し街の中に身を置いてみても良いんじゃないかと思いました。

そしてもう1つの大切な理由は、街の中を歩いていて楽器工房があったら面白そうだと思ったからです。

どうでしょうか、少しくらいは面白がってもらえてるでしょうか…?

フラットマンドリンってどんな楽器?

皆さんはフラットマンドリンという楽器についてどのくらいご存知でしょうか?

普通のクラシックマンドリンであれば形が思い浮かぶでしょうか?

簡単に説明をすると、ヨーロッパ発祥のクラシックマンドリンにバイオリンの製作技術を応用して作られたものがフラットマンドリンです。

発明したのはオーヴィル・ギブソンという19世紀半ばから20世紀前半まで生きていたアメリカ人で、この人はかの有名なギターメーカー”ギブソン社”の創設者です。

当時のアメリカではとても流行っていたようですが、今となってはギターやウクレレなどと比べると知名度はとても低く、ましてや日本ではフラットマンドリンが使用されるブルーグラスやカントリー、フォーク音楽の愛好家以外はほぼ知らないのではないでしょうか?

知名度が低いということは正直なところ需要も大きくはないわけで、現在国内にはフラットマンドリンの大きな工場は無く(1990年頃まではあったようですが…)、個人の製作・修理工房が数十件あるだけです。

その多くは高齢な職人さんなので、あと2~30年もすれば仕事が出来る人はほとんど居なくなってしまうでしょう。

しかし作られた楽器はその後も残り続けますし、演奏する人も少なくはなるかも知れませんが居なくなることは無いと思います。そういった人たちが困ってしまうことの無いように、同じフラットマンドリンという楽器が好きな者として力になれる、そんな工房で在りたいです。

悲しいことに、他の分野でも同じような状況はきっと沢山あるのでしょう。

現在ではインターネットや3Dプリンタなどの機械の発達で、一昔前よりももの作りのハードルは下がっていると思います。しかし伝統やノウハウ、感性や価値観といった部分を育むにはどうしても時間を積み重ねていくしかないのだと仕事をしていて感じます。

途切れてしまわないで欲しいです。

楽器工房の仕事

さて、僕が作っている楽器についても少し知って貰えたところでいよいよ弦楽器職人の仕事のお話をしてみましょう。

弦楽器職人と聞くと大体の人が”耳をすませば”を連想しますよね、僕も時々言われますが…。

楽器工房の仕事は大きく2つに分けられます。

そう、「製作」と「修理」です。

似ているようで全く違う面白さがありますが、やっぱり互いに通じてる部分があります。工房によっては製作しかしないところもありますし、もちろんその逆もありますね。

木材の個性と向き合う【製作】

製作の面白さはやはり世界に一つの新しい楽器を生み出せることにあります。

イメージしている音に近付けたり、お客さんの希望に応えるためどんな材料を使うか、前回から改善できる部分はどこか、より弾きやすくするためにはどうするか。

作る上で大切なことは沢山ありますが、中でも重要なのはやはり木材だと思います。

現在では身の回りの製品の多くは金属や樹脂製の物が多いですが、弦楽器は木材で作られていることが多いです。

金属や樹脂と木材の大きな違いはどこにあるでしょうか?

それは金属や樹脂は一定の同じ様な素材が手に入るのに対して、木材は同じ物は二つとして存在しないことです。(厳密に言えば金属や樹脂もそうかもしれませんが…。)

同じ種類の木であっても環境によって育ち方は変わって来ますし、つまりそれは木材になったときの性質が違うということです。

もっと言えば同じ一本の木から切り出された木材であっても木目の向きや詰まり方、杢の出かた、木の中心の材か外側の材か、などによっても性質は変わってきますし、それらは完成した楽器の音色や丈夫さなどに大きく関係してくるのでよく見極めて選ぶ必要があります。

だからといって素晴らしい木材を使えば必ず素晴らしい楽器になるわけでもないのが面白いところで、楽器の構造や音楽についてはもちろん世の中の色々なことに触れる必要があるなと、ここ最近は感じています。

つまるところ、僕は楽器作りと木材が大好きなんです。

ちなみに製作した楽器を弾いてもらえるというのもやはり嬉しいもので、初めてオーナーさんのライブを初めて見たときは感動で鳥肌がたちました。

最近は落ち着いてきて、ちょっと授業参観の保護者のような気持ちで聴いています。

大きな時間の流れに触れる【修理】

製作は未来の事を考える仕事とも言えるかもしれませんが、それに対して修理は過去を見つめる仕事なのだと思います。

作られてから今までの時間、その楽器がどのように過ごして来たのか。修理でお預かりするわけなので何かしら不具合を抱えているのですが、その症状の原因はどこにあるのか。

時にはそれを探る方が作業時間より長い場合もあります。表面上症状が改善されたようでも、原因が改善されなければ再発する可能性があるからです。

修理の時は製作と違って自分の良いと思う音を目指すわけではなくて、出来るだけ本来の状態に近づけるように心掛けています。

もちろん構造的に改善する必要があるならば手を加える場合もありますが…。


修理では時々驚くほど古い楽器をお預かりすることもあります。

これまでで一番古かったのは1917年ギブソン社製のマンドリンです。

1917年ギブソン社製マンドリン

今から100年以上前にアメリカで作られた楽器がきっと何人もの人と長い時間を過ごし、そして日本に渡って一旦僕の手元に預けられ、もしかするとまたこの先100年、200年と弾かれていくのかもしれない。

そんな大きな流れに一瞬でも関われるというのは、とてもロマンのある仕事だなぁと僕には思えるのです。

音楽と価値と未来

突然ですが、皆さんにとって音楽とはどんな存在でしょうか?

世の中には色々な音楽があります。

弾いたり聴いて癒されたり楽しむもの、友人と盛り上がるためのツール、芸術表現、BGMとして空間を彩るもの、流行やファッション的なもの、他にも色々ありますがその在り方に間違いはないのだと思います。

ではそれらの音楽の生い立ちを考えてみたことはあるでしょうか?

大体の音楽は何かしら昔の音楽の影響を受けていて、遡っていくとそこには人類の歴史やそれぞれの国や土地での人々の暮らしがあります。

そして色々な理由で、中には戦争を伴うような良くない出来事もありますが、それらが混ざり合い今に繋がり、そして今現在も新しい音楽が生まれ続けています。
僕が感じる音楽の素晴らしいところはまさにその多様性への寛容さです。

周りと同じことを求められることの多い現在の日本ですが、例えば皆が同じ声で同じメロディーを同じリズムで歌ったとしてもそれほど面白い音楽になるとは思えません。

それぞれの違いが響きあって、奥行きや幅が生まれるからこそ心が揺さぶられるのだと思います。

それにどこまで行ったとしても一人一人は別の人間ですよね、当たり前ですが。

きっとその違いにこそ価値があるのでしょう。

元号も令和になり、いよいよ成長した僕ら平成生まれも活躍していく時代がやってきました。

それぞれの得意や好みを生かしつつ、お互いを尊重し響きあっていけたら面白いですね

岩下マンドリンズ&ギターズ

韮崎市本町1丁目6−9

営業時間 10:00~19:00

定休日 月曜日

問い合わせ iwashita.mandolins@gmail.com