いま、地域の図書館が担う役割|大村記念図書館

はじめまして。今回の記事を担当させていただく足立あだち七葉ななはと申します。
普段は文部科学省ではたらいています。11月に1ヶ月間の地方研修で韮崎市にきて、1日だけにらレバのライター体験をさせてもらいました。
韮崎市に来るのは初めてでしたが、周りを囲む山々の景色が美しく、研修を通して出会った人々も温かくて、とてもいいところだなと感じました…!

人生100年時代と言われる昨今。学びの場は格段に増え、誰でもいつでも何かを学ぶことがしやすくなりました。地域の様々な場所や活動の中にも学びがあり、人生をより豊かにすることができそうです。その一つが図書館。

普段文部科学省で働く中で、実際の現場について知りたいという想いもあり、今回は「大村記念図書館」の館長の加藤さんと司書の日向さんに取材をさせていただきました。
これからの図書館について、地域の方々に伝えたいこと、学びの場としての役割…などなど、普段なかなか聞くことのできない図書館職員の方の考えをお伺いしてきました。

左が館長の加藤さん、右が司書の日向さんです。

本に携わる仕事をすることになったきっかけ

足立:本日はよろしくお願いします。まず始めに、お二人はどういった経緯でこのお仕事をされているのか教えていただいてもよろしいでしょうか。

加藤館長:20年くらい東京の出版社に勤めていて、データベースの編集などを長くやっていました。やはり直接本に触れる仕事がしたい、図書館で働きたいという想いが強くなり、今の(図書館向けの書籍の販売や管理業務を受託している)図書館流通センター(TRC)という会社がTRC MARCというのを作っていたことから、いままでやってきたことと共通する部分もあったので、図書館業界に転職しました。

※TRC MARC:図書館のサービスを円滑に動かすためのデータベースのもとになる情報(MARC)をTRCが作成したもの。情報を整理・保存し、いつでも誰でもどこからでも取り出せるようにする。TRC MARC累積件数は約360万件。(2017.6現在)

足立:本が好きだったんですね。

加藤館長:そうですね。司書の資格も取っていたので。

足立:そうなんですね。日向さんはどうですか。

日向さん:私も物心ついたときから本が好きで、図書館に通うというのが日常生活の中にあったので、本に親しむのは当たり前でした。しばらくは他の仕事をしていたのですが、その後韮崎に戻ってきて、図書館がニコリに移るタイミングで職員の募集をするという情報を耳にしたんです。本と人とを結ぶお手伝いができたらいいなと思って応募したのが始まりですね。地元が韮崎なので韮崎に貢献できるのもいいことだなと思って。

足立:やはり本が好きで、本に携わる仕事がしたいというのがずっとあって、タイミングも良かったということですね。

図書館は自分の知らない世界に出会える場所

足立:では本題に入っていこうかと思うのですが、お二人は図書館という場所の存在や、読書をすることの意味を、どのように感じていらっしゃいますか?

加藤館長:今後司書の仕事はなくなるんじゃないかと言われていて、貸し出しや返却はもう機械でもできますよね。では一体人間に何ができるかというと、色々な目的で来られる方それぞれに向けて、「それだったらこういうものがありますよ」とお伝えできるという事があるのではないかと考えています。自分だけでは辿りつかない本に巡り合えるのは、図書館の面白いところだと思うのです。

また、本を読んでいるだけだと、知識は増えても実際の経験は中々できないですよね。そこで当館では、様々なイベントを取り込むことによって、新しい世界に出会うための機会をご提供しています。人のつながりを作る、一つのハブのようなものになっていきたいと思っています。

足立:自分の知らない世界に出会える場所が地域にあるのは良いですね。

加藤館長:図書館は資料を置いてあるだけではないんです。地域の方々に来ていただいてそれを活かしてもらわないと、ただの書庫になってしまうので。

足立:そうですよね。日向さんはどうでしょうか。

日向さん:館長の考えと重なるところもありますが、特に子どもメインで考えると、心を育てる部分と頭脳面の両方で図書館が寄与する働きがあると考えています。
心の面では、物語を通して情緒が育まれたり、身近な人からの読み聞かせでその人とのつながりも生まれたりすると思っています。
子どもたちが本の中で思いも寄らない生活を体験したり、自分と違う価値観と出会ったりすることで学ぶことってあると思うんですね。そういった意味で本の果たす役割は大きいと思います。図書館は身近な公共の場なので、同世代以外の人とのつながりができるのも魅力だと思います。

頭脳面でいうと、図書館は知識の海だと思いますが、ただそこにあるだけだと意味がないので“活用の仕方を図書館で学ぶ”というのも重要だと考えています。

例えば、韮崎市では「図書館を使った調べる学習コンクール」というものを行っています。これは、テーマは自由でそれぞれ気になったことを、本を使って調べてもらいます。そこからわからないことがあればさらにインターネットを使ったり、人に聞いたりして、とにかく好奇心の赴くままに調べごとをしてみようという企画です。

足立:私も先日、調べる学習コンクールの発表を聞かせていただいたのですが、すごいですよね。中学生が株のことを調べていたりして。色んな分野で自分の興味を持ったことを調べていて素晴らしいなと思いました。

地域のことを伝えていく場所としての役割

足立:生涯学習施設の一つである韮崎市の公共図書館として、これから担っていきたい役割はありますか?

加藤館長:地域密着型の図書館でありたいと思っています。韮崎というまちに関する資料はこの図書館でないと集められないので、まずは地域資料をより充実させたいですね。
また、大村博士から数多くの蔵書を寄付していただいているので、博士の子どもたちに対する熱い想いを発信して、地域の活性化にもつなげていきたいです。 博士の直筆の書き込みが残る本を手にとって読むことができるのは、この図書館ならではの大きな魅力だと思いますので。

大村博士から寄贈された蔵書からは、博士の学びに対する姿勢が伺える
壁には韮崎大村美術館所蔵の絵画も並ぶ

加藤館長:地元の人でも地元を知らないことって多いんですよね。昔の風土病について知らない人もいて。この辺の土地で水害があったことも分かっていれば、この間の台風19号で避難指示がでたときにも、もっと危機感を持てたのではないかなと思いました。

足立:住んでるからこそ、安全だと決めつけてしまうという面は、きっとありますよね。地域のことも改めて知る機会がなかなかなかったり。

加藤館長:そういうところも図書館から発信していきたいですね。

日向さん:それに加えて、韮崎市の偉人や歴史についても、伝えていきたいです。新府城や武田家の歴史も、知ることで発見が多かったりするので。韮崎にこんなすごいところがあるんだというのは、子ども達だけでなく、大人にも知ってもらいたいと思います。

加藤館長:地元に誇りを持ってもらえるといいですよね。県外へ出たときにやっぱり地元のことが気になったりとか。

足立:やっぱり自分の地元を良く紹介できるっていいですよね。何にもないところだよとか言っちゃうと寂しいですもんね。

今後の展望と情報発信についての悩み

足立:お二人ともとても熱い想いをお持ちなんですね。最後に、課題と感じていることや、もっとこうしていきたいという部分を教えてください。

加藤館長:ここを一番利用されるのは年配の方なので、もっと若い方にも利用してもらいたいという想いがあります。中高生も本を読まなくなってきている傾向があり、それこそミアキスさんと組んで子どもたちに図書館来てもらえるようなことができればいいなと考えています。あとは働く世代の方。中々その世代の方の利用が伸びないですね…

加藤館長:今後はその層に向けて、ちょっとした平日のイベントを開催してみたいと考えています。例えばビジネス関連の話を聞けるセミナーのようなものであったり、仕事について語れる異業種交流のようなものであったり。そこに本を絡めていけたら、もうちょっと深みも出せるかなと思います。

足立:確かに、そういうのがあったらいいですよね。私自身も本が好きなのに、やっぱり就職してからは図書館から足が遠のいてしまっていて。もしビジネス関連のイベントがあれば、違う業種の人とも出会えるし、意見も交換できるしすごく魅力的だなと思います。

日向さん:私も幅広い世代の方に図書館を利用してもらいたいと思っています。
小学生くらいまでは親御さんと一緒に来てという子もいるけど、中高生だと勉強や部活で忙しくって。館内にある学習室は利用しても、中々資料には手が伸びないかなと感じています。

足立:確かに。学習室を利用する子は多くても、そこから資料に手が伸びるかと言ったら必ずしもそうではないですもんね。
私が思うに、従来の図書館というのは、静かにしなければいけないというイメージが強いなと思うんです。司書さんと話したりする機会もあまりないですし。

加藤館長:ええ、確かにそうですよね。

足立:この前も見ていたら、利用者の方が「子どもにこういうことを教えたいのでわかりやすい本ありますか?」とざっくり聞いたことも、ぱぱっと調べて「こういう本があります」とすぐに答えていて、本当にすごいと思ったんですよ。だから司書さんと本についてもっと気軽に話したりできる機会があればいいなと思って。

加藤館長:そうですね。今までは図書館職員の側で待っていることが多かったので、こちらから発信していけば、もうちょっと変わるかもしれないですね。

日向さん:最初の接点をどう結ぶことができるかですよね。
学校に読み聞かせに行ったときに子どもたちに顔を覚えてもらうと、次にその子たちが図書館に来た時に話しかけてくれたりもするので、何かで一度交流が生まれるといいのかなと思うのですが。

足立:子どもって一度顔を覚えると話しかけてくれたりしますもんね。

加藤館長:今年度からTwitterも始めて、図書館の様子はもちろん、イベントの告知や報告をしたり、館内のちょっとしたニュースも流したりはしているのですが、そこに加えてもう少し何かできることがあればいいですね。

日向さん:情報発信については、これからも考えていきたいと思います。地域のみなさまも何か良い発信方法のアイデアがあったら、ぜひ教えてほしいです。

足立:図書館の魅力が幅広い世代の方に伝わるといいですね。
今日は貴重なお話をお聞かせ頂きありがとうございました。

まとめ

今回のインタビューで、やはり図書館はただ知識を得るためだけの場所ではないと確信しました。本やイベントや人との触れ合いを通じて何か発見をしたり、自分の考えが深まったり、新たな人との出会いがあったりする場所で、そういうことすべてが学びにつながり、人生をより豊かにすることにつながっているのではないでしょうか。

図書館は地域を活性化させる1つの拠点になっており、人と人や、人と知識等、様々なものをつなげているのだと感じました。また、加藤館長が「地域密着型の図書館でありたい」と言うように、地域の図書館はその土地の資料を収集し、保管する役割も担っているのだなと分かりました。韮崎のことを詳しく知りたければ、韮崎大村記念図書館に行けば調べられる、というふうに図書館は市民のアイデンティティが詰まった場所でもありそうです。自分たちの地域の歴史や文化、特色等を文書として後世に残していくという役割も担っているのです。

図書館をただ静かに読書する場所だと決めつけてしまうのはもったいないと思います。今、図書館は進化の真っ最中。これからもっともっと変化を遂げ、多様な人にとって多様な使い方が出来る施設になっていく気がします。誰でも気軽に利用できる図書館。ぜひ何か調べたいとき、勉強したいとき、暇なとき、落ち込んだ時、いつでも特に用事がなくてもいいので、図書館に寄ってみて欲しいです。辺り一面に並ぶ本達と、その本を愛するスタッフの方々、あなたをわくわくさせる何かが待っているはずです。

韮崎市立大村記念図書館

〒407-0015 韮崎市若宮1丁⽬2番50号
TEL:0551-22-4946 FAX : 0551-22-4950
開館日カレンダー https://www.nirasaki-library.jp/opac/calendars