教育長に聞く。新時代の社会に開かれた教育を、韮崎はどうデザインしていくのか!?

堀川薫教育長対談アイキャッチ画像

「教育が変わる。」「60年ぶりとも言われる教育の大改革が2020年からはじまる。」そんなニュースを4年前に耳にして、「ついに…!」と気が高ぶったのを覚えています。

聞くと同時に、いざ始まった時に対応し得る現場を作っておこうと、中高生の拠点施設を開設したり、学校教育に参入したり、市内100社を超える企業とネットワークを築いてきたりと準備を進めてきました。

そんなこんなで迎えた2020年。

さあ、いよいよ始まる新時代の教育。

現場となる地域、企業、学校、行政がひとつとなり果たしてどんなことができるのか。

韮崎における新時代教育の鍵を握るひとり、堀川薫教育長に、その展望と可能性を伺って来ました。

新しくはじまった「社会に開かれた教育課程」とは

運動、アート、プログラミング、理数、地域、社会貢献などあらゆる領域で、学校が企業や地域社会、NPOなどいろいろな主体と連携しながら学びの場をつくっていく
というのが、いわゆる「社会に開かれた教育課程」という議論です(文部科学省 合田哲雄氏

ちなみに文科省だけでなく、経産省も「未来の教室」という未来を生きる人材を育てるプログラムを実施していて、国としての方向性が全体的に揃って来たように感じられます。

(経済産業省 未来の教室 https://www.learning-innovation.go.jp/
実は堀川先生は、小学生の時にお世話になった先生でもあります

社会の中で生きていける人を育てる

西:さっそくですが、今回学習指導要領が大きく変わるということですが、韮崎の教育の流れを振り返ってみてなにか転換期みたいなものは、これまでにもあったんですか?

堀:私は38年間教員していたんですけど、そのうち23年は韮崎なんです。その中でひとつの転換期としてはやっぱり「ゆとり教育」がありますね。それから、従来の知識理解が中心だったものが、それをどう活用するか応用力が問われるようになってきたことですね。生きる力といわれる「確かな学力」「豊かな心」「健やかな体」をバランスよく養っていこうということになりましたね。

西:それはなぜだったんですか?

堀:社会が大きく変わってきているからですね。もう知識理解だけじゃ、日々変化している社会で生きていけないと。教育の目標は社会の中で生きていく人を育てるというのが大前提にありますから。

西:ゆとり教育は5年くらいでしたっけ?土曜日がなくなったりしたのを覚えています。

堀:そうですね、でもはじまってすぐ後にもっと勉強させようとなって元に戻りましたね。

西:学力の国際ランキングで順位が下がったとか、現場が対応しきれなかったとか、いろんな要因がありましたね。堀川先生達、現場からしたらどうだったんですか?

堀:算数とか5年生でやっていたものを6年生でやったり、そもそも削る部分もあったりしたから、その分ひとつひとつのことをじっくりできるようになって、一教師としては良かったなという実感はあります。
でも大学入試とかは変わらなかったと思うから、その時の子たちは苦労したんじゃないかなと思います。だから最初の話に戻ると、一貫して大学入試とかまで全部変わったというのはいままであまり無かったですよね。

西:それもあって今回は60年ぶりの教育改革とも言われているんですね。ゆとりの時の教訓も活かして対応し得る現場も整えていく必要がありそうですね。

ふるさと愛教育とおいしい給食

西:韮崎の学校教育の現状はどうですか?

堀:小学校が5校、中学が2校あるんですけど、総じて「結構いい」と思いますよ。これまで韮崎市内のいくつかの学校に勤務し、小学校の校長もしてきましたが、管理職として見ている中でも、それぞれの学校が特色ある活動をしている印象があります。

西:具体的にはどんな特徴があるんですか?

堀:それぞれ特色がありますが、「地域やふるさとを愛する子どもを育てる」ということを教育目標にあげて大事にしている学校がある、というのはひとつ特徴だと思います。

例えば、今度、大村博士に東西中学校の生徒全員に『韮崎からストックホルムへの道』というテーマで話していただくのですけど、博士はいつも「韮崎で育ったことが自分の原点にある」ということをご自身の講演会や著書の中でも語られています。
大村先生のように、郷土の誇りとなる先生がいらして、そういった話を子どもたちが直接聞ける機会があるというのは素晴らしいことですよね。

西:確かに大村博士はいつもふるさと愛を語ってくださいますね。あと、自校式給食も韮崎の学校のポイントだとよく言われますよね?

堀:そうですね!韮崎でも給食センターをつくろうとした時があったのですけれど、保護者が中心になって美味しい給食を残そうという活動をしてくださって、結局自校式を継続し、今も拘りをもってやっています。
他のまちと同じ給食費でも、おいしいあったかい給食が食べられる。これっていいですよ。ほんとに美味しいですし。

学校の課題を解決することで、まちの課題も…

西:逆に現状の課題はどんなところですか?

堀:課題は…不登校の子が増えていることですね。適応指導教室のニーズがたくさんあります。どうしてもなにかの事情で学校にいけない子がいる。一時期減った記憶がありますけれど、今少し増えていますね。

西:そうなんですね…。人口減少はどうですか?

堀:それも大きな問題ですね。一番大きな甘利小だって、700人いたときもあったのが、いまは400人を切りそうになっていて…。穗坂小もすくないですね。一年生は9人。北西小も2クラスだったのが全部1クラスに…。
だからこそこれ以上減らさないためにも、いい教育を実践することで、韮崎を選ぶ人、暮らす人自体を増やしていきたいですね。

西:韮崎の学校ってオープンスペースがあったり、グラウンドが広かったり他にも良いところもたくさんあると思うのですが、そういったよさが上手く伝わっていないというのもありますかね?
学校のPRってどうやってしているんですか?

堀:それは課題としてありますね。HPや学校だよりを地域に回覧したり、開放日を設けたり…。やることはやっていても、どうしても限られた層にしか届けられていないかもしれませんね。

西:それこそ「にらレバ」で地域の学校のそれぞれの特色を取材するとかもありですね。意外と地域の人たちも、地域の学校が今どうなのか知らなかったりしますよね?

堀:それはやりがいあると思いますよ。いろんな特徴が見えてくると思う。
韮崎小なんか地域のシンボル的な建物でもありますし。学校って地域の人が本当に多く支援してくれているものなんですよ。地域で子どもたちを守り、育てる。つながれる部分が沢山あるはずです。

西:子どもたちに対してだと、特に多くの人が快く協力してくれるというか、同じ方向を向けますよね。自分達も日々中高生に対する活動をしていて実感しているところです。

学校がやるべきところを地に足付けてやっていく

西:これからの構想をお聞きしたいんですけど…そもそもどういう仕組みで構想を作っているのですか?

堀:それはですね、第7次総合計画という、韮崎市の向こう8年間の大きなまちづくりの指標があって、それに則って、教育大綱というのがあります。
基本理念としては、「心身ともに健やかに自ら学び、明日に夢を抱き、郷土を愛する心豊かな人づくり」…すごいいっぱい入っていますでしょ笑

西:そうですね全部って感じですね笑

堀:でも結局ここに目指しているもの全てを入れたかったんですね。ちなみにこれは市長と教育委員会で一緒に作っています。基本理念は長いけれど全部入っているし、いいものだと思います。
この中の“明日に夢を抱き”という部分がキャリア教育ですよね。なりたい自分になるために勉強していく。夢に目標を持って進む。そしてここにもちゃんと郷土を愛するっていうのが入ってますね。

西:逆にグローバルな視点は入っていないんですね。

堀:そうですね。直接は入っていませんが、策定の趣旨には「グローバル」という言葉が入っています。「明日を担う人材」というところに、その意味あいがあります。小学校に外国語が入っていますが、韮崎が先行実施していますし、もちろん、グローバルな視点も大事にしています

堀:私ここに書いてあることがとてもいいなと思っているんです。
教育は人づくりであり、人づくりはまちづくりの礎です。誰もが心身共に健康で自らの意志で学び、己の可能性や夢生きがいを見出す力をはぐくむ教育。そして豊かな自然と古の人々が紡いだ歴史と文化に育まれたふるさと韮崎を愛する心豊かな人づくりを目指します。

西:すごくいい…!

堀:これはなかなかいい文章ですよね。これが今後の目指すところであり、すべての元になっています。前の教育大綱にくらべるとかなりスリムにはなっているんですよ。

西:なるほど、自分達の活動ももちろん同じ方向の中でやっているので納得感が深いです。ちなみに堀川先生個人としては、任期の間に特に実現したいことってあるんですか?

堀:10月から自分の任期が始まったので、まだそこまで明確ではないんですけれど、これからは自分がどのように進んでいくのかも明らかにしていこうと思っています。
今やりたいなと思っているのは、学校っていうのは本来勉強するところ、夢に向かって進んでいくところですよね。学校が本来しなきゃならないところを、きちんと地に足付けてやっていける学校づくりをしたいですね。

堀:みんなが学校に来るのが楽しくて、学校では自分の夢に向かって進んでいくための勉強をいきいきとしている。夢や希望というものを前向きに話せる所なんですよ。学校って。

堀:さっき言ったような不登校やつらくなってしまう子が現状はそれでもいるんだけど、そうじゃなくて本当にすべての子どもたちが夢や希望に向かって自己実現できるようにしたい。そういう学校にしたい。本当にそうしていきたいですね。

西:なるほど、いろいろ抜きにして純粋にそこを実現できたらいいですよね。

堀:私、教員になって自分がずーっと考えて来たことは、とにかくひとりひとりを大切にということ。これが信条。すごく簡単な言葉かもだけれど、これが私の芯にあります。子どもたちとも保護者とも地域の人ともひとつひとつ関係性を作ってきましたし、つながっていくことが得意だったので、そういうのを活かしてこれからもやっていきたいですね。

勉強。部活。それ以外。

西:社会に開かれた教育課程の導入が始まりますが、その辺りはどうですか?

堀:学校というのは、学習指導要領に則ってやっていくことは決まっているんですね。だから「学校でこういうことやりませんか?」ということがあったときに、どうするか判断する必要があって、なんでもできるわけではないんですね。
その中で、河原部社でやってもらっている職場体験なんかは、必要とすることだし、成果も上がっていていい感じですよね。
そういう風にこれからもっと学校が開かれた場所になっていけば、地域とつながれる部分って他にも沢山あるんだと思います。

西:そこですね。本来やることは決まっていて、でもそのやり方を地域に開いていくことでより良くできるのであれば、協力しながらより良い形を目指していくという視点ですね。

堀:この社会に開かれたというのは教育課程の話。学校を開くというのはかなり前から言われているし、やっていて、今回のは教育課程という実際の学びの部分の話ですよね。

西:確かに。しかもその学びというのは、勉強に限らず、さらに勉強や部活以外の活動や生きる力といったものがいままで以上に意識されていますよね。

堀:そうです。今まではやることが詰まっていて、あまり子どもたちに余白がなかったんですね。あとは、自分のやりたいことが部活の中になかった、見つからないって子もいました。だから勉強や部活以外の部分、そこが多様になるのはいいですよね。

西:それはすごく思います。その部分というのがミアキスとしてはサポートできる部分ですね。学校や家庭でやりきれない部分をこっちでやるという。
その辺の多様性を担保していきたいです。子ども達が実社会の中にそれぞれの居場所をつくれることにもなりますし。

堀:そうそうそう。それはとっても大事。ひとつのコミュニティの中で上手くいかなくても、そこから出るすべが分からなくなってしまうというのが怖いから、外には違う世界がいっぱいあるということに気付けたらいいですよね。

堀:私、38年間の教員生活が終わっても、こうやってもう一度学校に関われていることは、自分としてはラッキーなことだし、もう関われないかなと思っていたから、嬉しいんです。
だから、いままでは自分のために一生懸命やってた部分もあるけど、今度はほんとうに学校や地域、教育のために自分になにができるかを考えて、これまでのことを活かして少しでもプラスになることをやりたいと心から思っているんですよ。

西:素晴らしすぎる…なんか教育盛り上げていきたいですね。せっかくいい波がきている気がするので。地域も学校も行政もみんな一緒になってやっていきたいですね!

自分の居場所で…

西:最後に、この記事の読者に先生の教え子も沢山いると思うので、なにかメッセージをお願いします!

堀:あのね、なんのために勉強するのか、それは「自分がなりたいものになるために勉強するんだよ、なりたいものがまだ決まってない子は、それが決まった時に目指せるようにいま勉強するんだよ」っていうと、1年生にもちゃんと通じるんです。なぜ集団で学校で勉強するの?「それはやっぱり社会の中で生きていくため。人と関わってやっていくためだって私は思うよ」って言うと、そういうことも1年生でもきちんと分かる。伝わります。

だからですね、自分の積み重ね、みなさんは小学校1年生の時から積み重ねてきたものがきちんとあるはずだから、それを活かして、自分の居場所で自分を輝かせて欲しい!そう思います。
自分を活かせる場所で輝いていますか?って聞きたいですね。

西:埋もれないって大事ですよね。自分が活かせる場所で自分を活かすという…

堀:もし自分が今していることに迷っている子がいるとしたら、それはまだそういう場所を見つけられていないってことかもしれませんよね。だから、焦らずじっくり見つけていけばいいんです。

韮崎教育座談会?

今回、教育長に話を伺い、韮崎における新時代教育をデザインしていくには、産学官民あらゆる人々が協働していく必要性を強く感じました。

「どうしたら地域で地域の子どもたちの学びをより良くできるのか?」

「そもそもこれから子どもたちに必要な学びとはいったいなんなのだろうか?」

そんな問いからはじまって、

「そのために必要な動きは、仕組みは、考え方はなんだろう?」

そして、

「じゃあ実際誰がどうやってそれをやっていくの?」

ということまで。

まずは、みんなで話す場を作るところからはじめたいし、学校をサポートできるような新しい学びのプログラムを作っていきたい!という人や団体とつながっていきたいなと思います。

もし、そういったことに興味がある方がいましたら、ご連絡お待ちしております…!

NPO法人河原部社 青少年育成プラザMiacis
西田遙

0551-45-9919
info@kawarabe.com