韮崎市の器屋『日と月』|自分に、人に、優しくするための器

日と月の亮さんがつくっている器


昨年9月、神山町の韮崎大村美術館のすぐ近くに「日と月」という器屋さんがオープンしました。

八ヶ岳と茅ヶ岳を一望できる見晴らしの良いところに佇む日と月では、店主がこだわってセレクトした全国の作家さんの器や、すぐ隣の工房でご家族がつくった器を購入することができます。

ご飯をよそったりお茶を飲んだり、器は生活に欠かすことができないもの。

だからこそ、使う度にあたたかい気持ちになれる器が手元にあったらいいですよね。

今回は日と月のご夫妻に、器づくりのおもしろさや、お気に入りの器を使うことのよさを、たっぷりお聞きしてきました。

全国の作家さんの器が並ぶ落ち着いた空間

日と月で販売している器の写真

ゆったりとしたピアノのメロディ、振り子時計がカチッカチッと揺れる音。

大きな窓から自然の光が降り注ぐ「日と月」の店内には、全国の作家さんの器や雑貨の数々が並びます。

どの作品からも凛とした空気感と温かみの両方が感じられるのは、お店を営んでいる三井亮さんと奈緒美さんご夫婦が、このお店に合いそうなものを丁寧に選んでいるから。

お二人はできる限り実際に作家さんに会いに行き、器の背景にあるものまで見た上で、お店での取り扱いを決めているそうです。

日と月のご夫婦の写真

亮さんは、すぐ隣の工房でお父さんと一緒に器をつくっている作家さんです。また、アイアンの作品を手掛ける造形作家さんでもあります。

つくり手の気持ちもわかるからこそ、日と月では、有名・無名に関わらず、「この作家さんを応援したい」と思った作家さんの作品にスポットライトを当て、丁寧にお客さんに届けています。

気になる作品があったらお二人に声をかけると、つくり手の人柄やその方が大事にしている想いなどを教えてもらえるので、より器を身近に感じることができます。

和紅茶とシフォンケーキをたのしめる喫茶スペース

ケーキセットの写真

平飼い卵のシフォンケーキセット¥990

店内には2つのテーブルがあり、静岡・宮崎・屋久島産の無農薬和紅茶と、奈緒美さんお手製のシフォンケーキを注文することもできます。どちらもやさしい味わいで、買い物の途中にほっと一息つくのにぴったりです。

ちなみに、シフォンケーキが乗っているお皿とティーポットは、亮さんの作品です。一点ものなので全く同じものはありませんが、店内で同じ種類の器を購入することもできます。

工房「日月窯」の窯で器を焼き上げる

日月窯の写真

お店のすぐ隣には、亮さんとお父さんの康生さんの工房「日月窯」があります。

日月窯にある大きな窯では、大量の器を一気に焼き上げることができます。

窯を器でいっぱいにするには3〜4ヶ月ほどかかりますが、一気に焼くことで冷めていくときの温度の下がり方がゆるやかになり、器にとって望ましい状態になるのだそうです。

工房での作業風景器をつくる亮さんの写真

お店でお願いすれば工房も案内してもらえるので、日と月を訪れた際には、工房も覗いてみることをおすすめします。

実際に器をつくっていく工程を見ると、すごく手間がかかっていることがわかるので、お店に並んでいる器を見る目が少し変わってくると思います。

「窯に入れてしまったら、あとは自然の力に任せて待つしかないんです。すごく温度が上がって、自分が手を加えることはもうできない。熱で少し曲がったりするんですけど、その一つ一つの違いが毎回たのしくてしょうがないんですよね。」

つくり手が感じていることに触れることができるのも、工房を訪れるたのしさの一つです。

日月窯では陶芸教室も開催しているので、つくり手の気持ちを体験してみたいという方はぜひ参加して、自分だけのオリジナルの器をつくってみてください。

山梨の果物の枝を釉薬にして色付け

木の枝の釉薬で色付けされた器

康生さんの作品の数々

釉薬づくりに使う木の枝の写真

左奥から、すもも・さくらんぼ・巨峰の枝

日月窯では、山梨の果物の木の枝を灰にしたものに鉱物を混ぜてつくった釉薬で、器の色付けをしています。

この技術は、康生さんが若い頃、岐阜の工房で修行していたときに、師匠に「その土地でしかできない焼き物をやるといい」と言われ、5年ほど研究を重ねて編み出した技術です。

巨峰の枝を使うと紫の色味が出て、さくらんぼ・すもも・桃の枝を使うとそれぞれ違った緑の色味が出ます。枝によっては色が濃く出るものも薄く出るものもあり、仕上がりは一定でありませんが、その違いが枝を使った色付けの味わい深いところです。

巨峰の枝は韮崎の農家さんから譲ってもらっているそうなので、韮崎らしさのあるプレゼントやお土産を渡したいときに、日月窯でつくられた器をセレクトするのもおすすめです。

お気に入りの器を使うこと

「なんでもいい」と思えば、器は適当に揃えてしまうこともできます。

器にこだわりたい人もいれば、あまり興味がないと言う人もいるでしょう。

なぜ三井さんご家族は、器というものに心惹かれているのでしょうか。

心を込めて選んだ器を生活の中で使うことはどのようなことなのか、奈緒美さんに聞いてみました。

「お気に入りの器を使うのは、自分を労ることだと思うんです。いっぱいいっぱいのときって、心の余裕がなくなってしまいますよね。そういうときにちょっといいもの、好きなものを使うことで、自分自身を正常な位置に戻すような感覚というか。説明がむずかしいんですけど、心にあったかさが生まれるというのかな。器は日々の自分を応援してくれるアイテムだと思うんです。」

奈緒美さんが言うように、手に取る度に「素敵だな」と思える器が日常の中にあれば、それだけで少し心が穏やかになるような気がします。

奈緒美さんは、「本当にいい仕事をさせてもらってるなって思うんです」と話を続けます。

「自分に優しくすると、人にも優しくすることができますよね。なので、お客さんが器を真剣に選んでいる姿を見ると、この方はきっと、自分や人を大切にしようとしているんだなって思って、素敵だなって感じます。そういう場を提供できることがすごくうれしいです。」

訪れることで優しい気持ちになれるお店が市内にできたことは、住んでいる私たちにとってもうれしいことです。

日と月が教えてくれる日々の営みを大切さを、まちのみんなで受け取っていくことができたらいいなと、奈緒美さんの話を聞いて思いました。

地域のお客さんに親しまれながら一歩ずつ

日と月のお店は、もともと北杜市にありました。

「窯のある場所でお店をやりたい」という想いが昔からあったため、窯場の続きにある康生さんの住居部分を改装して店舗にし、昨年9月に韮崎にお店を移転したそうです。

「観光圏から生活圏にきたなって感じています。北杜の頃は観光で来るお客さんがメインでしたが、韮崎は近所の方がよく来てくださって。お客さんもお店に親しみを持ってくれている感じがして、以前より一歩踏み込んだ関係性を築いていけそうな気がしています。」

康生さんが「日進月歩」という言葉からとって名付けた「日月窯」には、「少しずつ進歩していく」という想いが込められています。

日と月の店舗と一緒に、この韮崎のまちや私たちの日々も、少しずつ前に進んでいくといいなと思います。

そのために、まずは日々の自分を応援してくれる器を、暮らしの中に招いてみてはいかがでしょう。

お店の情報

「日と月」