「本を通じて、情報を正しく扱う力を付けてほしい」図書館の中から生徒に望むこと|市立韮崎西中学校 学校司書のシゴト

『ニラサキのシゴト』第7回は、《学校司書編です》。
韮崎西中学校で学校司書を務める仲澤さんにご登場いただきました!

本の貸出以外に、学校司書さんがどんな仕事をしているかを知れる機会は少ないのではないかと思います。

「本を貸す以外にどんな仕事があるの?」

「どんな基準で本を選んでいるの?」

「町にある図書館の司書さんとはどう違うの?」

そんな疑問をもとに、学校司書さんの業務内容について教えていただきました。

その上で、学校図書館だからこそ見える生徒の姿、図書を通じて生徒たちに期待する学びや成長の形など、

学校司書というお仕事を通じた読書教育に対する仲澤さんの考えについてもお話しいただきました。

(注)2月に取材したためマスクの無い写真を掲載しています。また消毒作業を行うなど感染症予防には注意を払いながら取材を行っています

韮崎市立西中学校学校図書館司書の仲澤さん

今回取材を受けてくださった韮崎西中学校の学校司書 仲澤さん


学校司書ってどんな仕事?

はじめに、学校司書さんのお仕事について教えてください。

学校司書仲澤さんの一日の業務スケジュール

仲澤さんの一日の業務スケジュール。


図書館を整備する仕事だということはご存じの通りだと思いますが、それ以外に、生徒の学習を支援することも学校司書の仕事です。

たとえば修学旅行の際に、地域の歴史や文化について調べ学習をしましたよね。そういったときに図書を通じて生徒が学習できるように本を提案したり、授業の進度や時季に合わせて特設コーナーを作ったりしてします。

取材した2月には、高校入試で出題される作文に関連した特集コーナーが設置されていました


利用者への貸出対応だけでなく、生徒の学習に向けた提案があるのが学校ならではですね。

そうですね。文科省が作っている『学校図書館ガイドライン』の中では、生徒に対する「間接的支援」「直接的支援」「教育指導への支援」と3つの言葉で説明されています。
言葉が難しいですが、いずれも"支援"とついているように、生徒が学習したり先生が授業をするのをサポートするということが書かれています

図書館を整備するだけでなく、図書の活用を通じて生徒の学習をサポートする仕事ということですね。

図書室前の廊下には「先生のオススメの本」コーナー。本を介して先生たちの考え方や好きなものに親しみを持てて面白い

「一つ一つの蓄積」が学校司書のスキル

具体的にはどのような形で学習をサポートするんでしょうか?

例えば、『総合的な学習』や社会の授業で調べ学習を行う生徒に対して「レファレンス」を行ったり、入学時にはオリエンテーションや図書便りを発行して図書館利用のルールやマナーをお知らせしたりします。

(※)レファレンス・・・利用者が求める資料や図書の紹介や提供

ほかには、先生の授業をサポートを行う場面もあります。「こんなテーマについてこんな授業をやりたいんだけど何か良い資料はないですか?」と相談を受けた場合には、先生と連携しながら図書を提供します。

どの図書を提供したらいいか迷ってしまうことはないんですか?

たしかにそれは難しいですね。タイトルの分からない本を調べるときには特に難しいです。ただ、学校の場合は、年間の中でいつどのような資料が必要かある程度決まっているので、あらかじめ準備をしておくなど工夫はできます。

あとは、毎回蓄積していくことが大切だと思っています。本を提案した後になって「あのとき聞かれていたことがこっちの本に載ってた!」と気が付くこともあります。そのときに「うまくいかなかった」で終わりにするのではなく、「次の場面ではこの本を提案できるようにしよう」と引き出しに加えておくんです。一つ一つの蓄積が大切だなと思います

工夫と知識の蓄積が、学校司書さんのスキルにつながっているんですね。
ネットで調べるのは早くて簡単な反面、自分で考える検索ワードの範囲の中でしか情報が得られませんよね。司書さんに提案してもらうと、ネットとは違った図書と出会えるのが素敵ですね

学校司書の魅力

学校司書を目指したきっかけ

仲澤さんは、どのようなきっかけで学校司書を目指されたんですか?

一番に思い浮かぶ理由としては、子どもの頃から読書が好きだったからですね。とにかく本ばかり読んでいました。もう一つは、図書館という場所が好きだったんだと思います。

図書館のどんなところが好きだったんですか?

図書館って、ただ本を読むための場所というだけではなく、学校の中で生徒がほっと一息つける居場所でもあると思うんです。学校の中にありながら、教員とは違った立場の大人がいる数少ない場所ですよね。図書館の中では成績を付けたりはされません

たしかにそうですね。

生徒への貸し出し受付を行う仲澤さん

生徒と会話する仲澤さん

私自身、ちょっと一息つくために学校図書館に行くこともありましたし、そこで接してくれる学校司書さんの存在にすごく安心したのを覚えています。小学生のころ、何を読んだら良いか相談するといつも優しくアドバイスをくれる素敵な司書さんがいて、そういった身近な大人がいる学校図書館という場所が好きでした

小学生時代に憧れになった司書さんがいたことが、学校司書を目指すきっかけになったんですね

そうですね。その後、学校司書の資格を取得したのですが、就職するタイミングでは募集がなく、一度は他の業界へ就職します。学校司書の求人はあまり多くないんですよね。
その後、当時の会社を退職し、たまたま韮崎市で募集が出たと知ったタイミングですぐに応募しました。

「学びの下地」を育成できることが学校司書の魅力

実際に、学校司書として韮崎西中で働いてみて、どういったところに魅力を感じますか?

生徒たちが生涯にわたって自分で学び続けられるための「学びの下地」を育成できることは、学校司書の仕事の魅力の一つだなと思います

「学ぶ下地」?どういうことでしょうか?

たとえば、何か情報を得ようとしたときに便利なインターネットですが、キーワードを入れて検索するにもたくさんの言葉を知っている必要があります。さらに、集めた情報の中で何が正しいのかを選ぶためには、情報を正しく選び出す力も必要になります

集まった情報がすべて正しいとは限らないですもんね

情報を正しく読み取るためには、前提となる知識が必要なんです。学校図書館には、自分では買わないような分野の入門書がたくさん揃っています。中学校のうちにさまざまな分野の本をじっくり読んで知識にしておくことで、いつか何かにつまづいたとき、知識が突破口になって身を助けてくれることがあると思っています

本から得られる知識が、情報を扱う下地となるんですね。

生徒達には、図書を通じて十分な前提知識を持ち、情報を正しく見分けて上手に使えるようになってほしいですね

「山梨の学校図書館は環境に恵まれていると思います」

もう一点、これは学校司書の魅力というわけではないですが、韮崎で学校司書になって良かったなと感じてるんです

どんなところが良かったですか?

各校ごとに常勤の学校司書が揃っていて、学校同士での連携が取れるところです。
当たり前じゃないかと思うかもしれませんが、他県では、1人の学校司書が何校も兼務して、ほとんど学校にはいないという状況が多くあるようです。

山梨県は全国と比べて見ても、学校司書の配置率はトップレベル。韮崎にいたっては配置率100%なんです

文部科学省作成資料より。H28年度調査では、中学校における全国での学校司書配置率は平均58.2%


やまなし移住・定住総合ポータルサイトより。山梨県の小学校における学校司書配置率は98.3%、中学校は97.5%


地域間で結構大きな差があるんですね

各校に常勤の学校司書がいると、生徒はいつでも便利に図書館を利用できますよね。さらに、各学校に学校司書がいることは私たち自身にとってもありがたいことで、学校司書同士で連携したり、ノウハウの共有や共同研究を通して司書としてのスキルを高めていくことができます

情報を共有できる場があると安心ですね

そうですね。さらに韮崎には、全国的には珍しい正規職員の学校司書がいます。元々は旧市立図書館で勤務され、現在は市内の小学校に勤める中村さんという司書さんです。
正直なところ、私も含め学校司書は非正規での雇用が多く、長く務める人があまり多くありません。そんな中で中村さんが正規職員として韮崎に長くいてくださるからこそ、これまでのノウハウや経験を途切れさせずにつないでいくことができています

困ったときに相談できるリーダーがいるんですね

私自身、困ったときには中村さんにはたくさんのアドバイスをいただいているし、韮崎市内で開かれる図書部会や市立図書館との連携といった場面でリーダーシップをとってくれる中村さんの存在は、とてもありがたいですね

各校に1名ずつ学校司書が配置されていて、さらにはその連携を長年引っ張ってきてくれているリーダーがいるというのは、学校司書としてはすごく恵まれているなと感じますね。韮崎で学校司書になって良かったなと思います

仕事へのこだわり

書架の整理を行う仲澤さん

仲澤さん自身が、図書教育において大切にしていることはありますか?

学校司書を目指した理由の中でも少し触れましたが、生徒にとっての居場所としての側面は大切にするようにしています。文科省のガイドラインでも「一次的に学級になじめない子供の居場所となりうること等」と業務の指針が定められていますが、私自身が小学生のころ司書さんに優しく接してもらったように、わたしも生徒にとって身近な存在の大人の一人でありたいなと思います

司書さんがそう思ってくれていると生徒は安心して行きやすいですね

「図書館に来ることが楽しかった」「お喋りできる場所があって良かった」と生徒から手紙をもらったり、「先生がいるから安心する」と言ってもらえることもあって、生徒の居場所の一つを作れていることを嬉しく思います

他に大切にしていることとして、図書室を適切にアップデートすることは大切に考えています。極端な例で言えば、ロシアについて調べるときにソビエト時代の情報しかなかったり、太陽系についての調べ学習で「冥王星」が入ったままの資料を渡してしまうのは望ましくないですよね

アップデートの必要性が分かりやすい例ですね。そして、なつかしい!笑

「学校図書館は情報が古いからやっぱりネットの方がいいね」と思われてしまっては不本意ですからね。正しい情報が得られること、教育過程に合わせてバランスよく学習ができることを基準に、資料の更新を進めたりしています

司書さんたちがアップデートをしてくれているからこそ、図書館の情報を正しく利用できるんですね

利用者からみると、学校図書館はいつでもきれいに並んでいて、私たちの仕事は「楽そう」「簡単そう」だと言われることもありますが、表舞台に立たない部分で利用者のサポートをしているという部分を知ってもらえたらいいなと思います

僕も、今日初めて知れたことが多くありました。業務内容だけでなく、教育への考え方についてもお話が聞けて、僕自身も図書館に対する考え方が広がった気がします

韮崎に思うこと

最後に韮崎について教えてください。仲澤さんは出身である北杜市から、韮崎高校に通っていたんですよね。韮崎について印象に残っていることはありますか?

高校生のころを思い返してみると、坂の途中にあった市立図書館によくお世話になっていたのを思い出します。落ち着く雰囲気がすごく好きでした。あとは、今のニコリができる前、イトーヨーカドーに入っていた清水書店さん!毎日のように通って本を買ったり…今だからこそ話せますが、立ち読みもよくしました(笑)
ほかには、高校の教科書や文具を買いに、文光堂さんや高野書店さんにも行きましたね

まちの中にも、本を中心にした思い出がたくさんあるんですね

そういった昔からある実店舗の書店さんを見かけなくなってしまったのは、個人的には本当に残念に感じます。ただ一方では、とても素敵な雰囲気の大村記念図書館がニコリの中に出来ていて、すごく嬉しいですね

これから、さらなる変化や充実を望むことはありますか?

最近参加した図書館職員に向けた研修の中で、「通信の発達によって、職業は今とは全く違う枠組みとなっていくだろう」という話が出ました。生徒は中学2年生になると職業体験に取り組みますが、実際に就職する2030年には、働き方は大きく変わっているかもしれません。副業や、一度就労してから教育機関に戻る『リカレント教育』、テレワーク。そういった仕組みや考え方が広まり、地元で暮らしながら都会の会社で働くという働き方が一般的になってくると、まちの姿も変わってくるんだろうと思います。

韮崎市も私が高校生の頃とは大きく変化していますし、今後も移り変わっていくことがさらに楽しみです

想像すると楽しみですね。取材させていただき、ありがとうございました

図書を通して生きる基盤になる力を身につける

今回は、韮崎西中学校の学校司書、仲澤さんに取材しました。

業務内容についてお聞きする中では、正しく情報を扱う力を身につけてほしいと図書を通じて生徒たちの成長を願う、教育への想いをうかがい知ることができました。

一冊の本がすぐに人生を変えるということは多くないかもしれませんが、一つ一つ知識を蓄え、自分で情報を正しく読み取る力を身につけていくことは、学校を出て生きていく上でももっとも大切な「生きる基盤」とも言えるかもしれません。サポート役としての立場から、そんなことを生徒に伝えてくれているんだなと、司書さんの仕事への理解をあらためる機会となりました。

学校司書についての詳細は、韮崎市役所(秘書人事課)までお問い合わせください。

また、求人情報については、山梨県教育委員会HPに掲載されている学校司書(会計年度任用職員)の求人案内をご覧ください