「顔が見えないからこそ、使う方の期待を越えていく」在宅ワーカーに聞く仕事と暮らしの魅力|DTPオペレーターのシゴト

DTPオペレーター高永俊幸さんアイキャッチ画像 ニラサキのシゴト

ニラサキのシゴト9回目は、韮崎市穴山町の一軒家にご夫婦で住み、10年以上前から在宅ワークで『DTPオペレーター』という職業をされている高永俊幸さんにご登場いただきました。

地方移住や地元へのUターンを考えるときに多くの方が直面するだろう「どうやって働いていくか」「ちゃんと稼ぎ続けていけるのか」という問題・・・。

条件の合う働き先が見つかればよいですが、給与や会社の数といった条件で都会と地方を見比べてしまうと、「都会より地方の方が働きやすいよね!」と声高には言えない現状もあったりすると思うのです。

「じゃあ自分で仕事を作ればいいじゃん」「フリーランスで仕事取ってくればいいじゃん」などという声も聞くものの、、、

「そうは言ってもぶっちゃけ怖いじゃん・・・!!」

一移住者としては、そんなリアルな本音もあったりすると思うのです。

「個人で仕事をつくってる人と実際に会ってみたい、できればにらレバでも紹介したい」

そんなことを前々から思っていた折、東京足立区からの移住者であり、『DTPオペレーター』という耳慣れないお仕事を自宅でされているという高永さんにご登場いただけることになりました。

DTPオペレーターの仕事内容だけでなく、移住後の韮崎での暮らしの様子や、新しい土地で受け入れられるために重要なことについてもお聞きしました。

そもそも「DTP」って何?

高永さんへのインタビューの様子

 ——— 今日は、高永さんのシゴトについて色々と教えていただきたいのですが、そもそも『DTP』とは何でしょうか?

高永さん

正確には、DTPオペレーターと呼ばれています。DTPっていうのは、DeskTopPublishing(デスクトップパブリッシング)を略した呼び方ですね。パソコンを使って出版物や印刷物のデザインやレイアウト作業を行い、印刷する前段階となるデータを作成する仕事です

 ——— なるほど。出版物が印刷される前のデータを作るお仕事なんですね

高永さん
出版物と言っても取り扱うものは本当に無数にあって、ふだん何気なく目にするポスターや、冊子や書籍や商品の取扱説明書・・・それこそ世の中に出版されているもののほとんどにDTPが関わっていると思います

 ——— そんなにも世に広くあるお仕事なんですね!実はお恥ずかしながら、今回高永さんにお会いするまでDTPオペレーターという仕事は初耳で・・・。実際にどんなものを作っているか、もう少し詳しく教えてもらえますか?

高永さん
いいですよ。僕の場合は、出版物の中でも、主に製品マニュアルを手掛けることが多いですね。

たとえば最近で言えば、日本製自転車についての『チェコ語版マニュアル』を作成するという仕事をしていました。日本製品をチェコに向けて輸出しようとなったときにはチェコ語で書かれたマニュアルが新しく必要になります。既にある日本語版からチェコ語版に書き換えるというわけですね

 ———日本語のマニュアルからチェコ語に翻訳するってことですね。・・・ん、翻訳?!高永さんチェコ語が分かるんですか!?

高永さん
いやいや、さすがにそういうわけじゃないです(笑)

別の翻訳家の方が日本語からチェコ語に訳してくれたテキストデータと、クライアントからの仕様書、元々ある日本語版マニュアルとを見合わせながら、日本語からチェコ語にパーツを組み替えていくといった感じですね。 クライアントさんの作りたいものに合わせて、作り方は違っています

でも面白いもので、何十ページと作業して目にしているうちに、「ココ、こんな意味っぽいなー」くらいには分かってきたりしますよ(笑)

 ——— (笑)それ、「DTPあるある」かもしれないですね(笑)

「DTPの仕事に何が必要かは実務に入ってみないと分からない」

 ——— DTPオペレーターにはどうしたらなれるんでしょうか?資格や必須のスキルなどありますか?

高永さん
「これが無いとDTPオペレーターになれない」というような資格は特にありません。よく使われるソフトウェアとしてはInDesign、Illustratorなどのadobeソフトや、WordやExcelあたりでしょうか。

でも、そういったことツールの操作以上に、実務に入って経験や技術を身につけていこうとする姿勢の方がもっと大切だと思います

 ——— 技術を一通りマスターしてからようやく実務に入れるのかと思ったのですが、そうではないということですね?

高永さん
そうです。さきほどの繰り返しになりますが、ひと括りにDTPと言っても、手掛ける制作物はそれぞれ違っていて、当然、どんなものを作るかによって使うツールや知識も大きく違っています。

自分はどんな領域で活躍したいのか、そのためにはどんな知識やスキルが必要なのかを知るためには、まずは実地に入って仕事を見て経験してみる
その上で自分にとって本当に必要な知識やスキルを集中して磨いていくということを続けていく方が、実用的なスキルにつながるんじゃないかなと思います

 ——— なるほど。まんべんなく身につけてから始めようとするのではなく、実務に合わせて本当に必要なことを習得していくことが大事なんですね

 ——— 高永さん自身は、どのような経緯でDTPオペレーターになられたんですか?

高永さん
元々目指していたというわけではなく、最初は大学時代の友人に誘われて興味本位で始めたアルバイトがきっかけでしたね。久しぶりに会って飲んでいたときに、「うちの会社でDTPオペレーターが足りないんだけど、やってみない?」と声をかけられて。

大学では「画像工学」という分野を学んでいて、物の見た目に関する興味はあるにはあったんですけど、泉さんと同じく、「DTPって何だったっけ…?」というような状態でした(笑)でもなんとなく面白そうだなと思って、始めてみることにしたんです。

 ——— はじめから目指していたわけではなかったんですね。

高永さん
そうですね。実は大学に通った後、バンドや作曲活動といった音楽の仕事をしようと考えていたんです。出演や作曲依頼の機会が増えてきていましたが、「これで食べていくのは難しいかもしれない」とも感じていました。
しばらくは、選択に悩みながら音楽とDTPオペレーターの仕事を並行してやっていく時期がしばらくありましたね。実は今もたまに、作曲の仕事をすることがあります

 ——— なるほど。お部屋の中にたくさんある楽器についていつ聞こうかと考えていたんですが、合点がいきました(笑)
友人の紹介から始まったDTPのお仕事ですが、実際にやってみてどうでしたか?

高永さん
作業すること自体が純粋に楽しい」というのが、やってみての印象でしたね。子供のころから機械に触れることが好きだったこともあって、パソコンのソフトを使って「これがいいかな、こうするとどうかな」と工夫しながら作業していくの仕事は、僕自身にすごく合っていたんだと思います。

勤務先が変わったりはしながらも10年間DTPオペレーターを続けていたところ、当時お世話になっていた会社の方から「外注で仕事してみたらどうですか?」と提案を受けました。会社はちょうど、経費削減のためにアウトソーシングを推進しようとしていた時期だったみたいです。

今のように在宅で仕事をするようになったのは、今からちょうど10年前でしたね

「在宅ワーク」という働き方

 ——— 今お話に出た「在宅ワーカー」という働き方についても興味があります。ふだんはどんな感じでお仕事されていますか?

高永さん
あくまで僕の場合ですが、時間で言えば9:00~12:00、お昼休憩を挟んで13:00〜17:00という感じ。働く曜日も、クライアントに合わせて調整はありますが、基本的にはカレンダー通りに働いていますね。

ただ、作業中ちょっと疲れたなと思ったときには室内のハンモックに横になったりもしています(笑)納期さえ守れる範囲であれば、作業の進め方についてはある程度裁量が任されているので、ほかのことをしたり、学校から帰宅してきた子どもと話をしたりする時間も生まれやすいですね

ちょうどインタビュー中に、娘さんが小学校から帰宅。アイスを食べながら学校での出来事を高永さんに話していました

 ——— 仕事と家族との時間が無理なく一緒になっていてすごく素敵ですね。融通が利いて羨ましいなと思うんですが、反対に、「在宅ワークでやりづらいな」と思うことってありますか?

高永さん
一人で動ける身軽さと裏表のことかもしれないですが、一人でやっててつまんないなと思うことは多少ありますね(笑)一緒にやる仲間がいたら楽しいだろうなとは思います。

あとは、クライアントだったり商品を使っているお客さんの反応を直接見られないから、きちんとこちら側で、「どうしたらお客さんが使いやすいか」を深く想像しながら作っていかないといけないところは難しいところかもしれないですね

 ——— なるほど。そういった面もあるんですね。在宅ワークやテレワークへの関心が高まっている今だからこそ、十年以上在宅ワークで働いてこられた実際の経験談がとても参考になります。

高永さんの仕事観「想定を越えた満足は、何より僕自身が嬉しい」

 ——— DTPオペレーターという仕事をする上で、高永さんはどんなことを大切にしていますか?

高永さん
大切にしていることは二つあります。

一つは、「お客さんがどう読むか」を最大限考えることですね。パソコンの画面に向かって作業している僕らは、依頼主や商品を使うお客さんと対面して直接リアクションを見たり知れる場面はほとんどありません。だからこそ、「こういう書き方にしたら分かりやすいんじゃないか」と、使う人の目線に立って考えるということを大切にしています。

クライアントさんの注文に沿うことは大前提としながらも、「ここはこんな書き方にしたらもっと分かりやすいんじゃないか」など、こちらからも提案をしたり相談をするようにはしています。

それが使う人のためにもなるしクライアントさんのためにもなる。それももちろんなんですけど、クライアントさんの指示や想定を越えてもっと満足させられた時って、僕自身がすごく嬉しいし楽しいんですよね(笑)

 ——— 相手のことを満足させることで自分自身も仕事を楽しめるって、すごくワクワクする感覚ですね!

高永さん
もう一つ大切にしていることは、アルバイトとして初めてDTPの仕事を覚えた会社で言われた「100%で仕上げろ」という言葉です

 ——— う、聞く前から耳が痛くなってきました・・・(笑)具体的にはどういった意味ですか?

高永さん
例えば、出版物が企画されてからお客さんの手に届くまでに5つの工程があるとするじゃないですか。一つの作業を90%の精度で仕上げるか100%で仕上げるかって、その一つだけで見たら小さな違いであっても、たった5回繰り返されるだけですごく大きなクオリティの差になるんです。仮に90%が5回繰り返されるとすると、出来上がりは60%のクオリティになりますからね。

全体での完成度を意識するからこそ、目の前の一つ一つの作業を100%で仕上げるということは大切に考えています

 ——— なるほど。100%を一つ一つ掛け合わせていくことが大切なんですね。勉強になります。

韮崎での暮らしについて「地域に貢献することが自分たち自身の幸せな暮らしにつながっている」

 ——— 最後に、高永さんの韮崎での暮らしについても教えてください。高永さんはどういった経緯で韮崎に来られたんでしょうか?

高永さん
子どもが小学校に上がる前、「もっと自然に囲まれた環境の中で子育てできたら良いね」と妻とは話していて、地方に暮らすことに興味は持っていました。そんな話を大学のころの先輩に話してみたところ、「うちの別荘が空いているんだけど、手入れが行き届かなくて困ってる。よければ住んでくれない?」という提案があって、それが韮崎にある今の家だったんです

 ——— 人との縁で移住の話が進んでいったんですね。韮崎に来てみてどうでしたか?

高永さん
生活面で言えば、暮らしやすくて便利なところだなという印象でした。ここ穴山町は緑に囲まれていてとても静かで過ごしやすいし、ちょっと車で行けば日用のほとんどのものは駅中心に揃っている。正直に言えば、住み始めた最初のころは「徒歩圏内にコンビニが無いのか」と思ったりもしましたが、そういうことはすぐに気にならなくなりましたね。

また移住生活の面で言えば、「地域の方から歓迎されている」と実感できる場面が多くて嬉しく思います。
移住した地域によっては相性の合う合わないがあって、移住した先に馴染めないという話も耳にしますよね

 ——— 移住した先の方に受け入れてもらえるかどうかって、新生活を送っていく上ですごく大切なところですよね。新しい場所に移り住んで幸せに暮らしていくために、高永さんはどんなことが大切だと思いますか?

高永さん
「地域に貢献する」という意識が重要なんじゃないかと思います。それが、地域のためだけでなく自分たち自身の幸せな暮らしに繋がっていると思うんです

 ——— 具体的にはどのように繋がっていると感じますか?

高永さん
たとえば、近所の清掃活動に参加したり、お祭りの役割を買って出たり。それは一見無償のボランティアようですが、その経験って、地域のためだけでなく、自分たち自身にとってすごく勉強になるんですよね。

お祭りなどを通じて、その地域でずっと守られてきた文化や伝統を知ることで、自分たちが今いるところがどんな場所なのか、どんな歴史を経てこの場所があるのかを知ることができるんです。

地域を自分たちの手で守ったり作っていくという感覚は東京に暮らしているころには持っていなかったですが、すごく豊かな感覚だなと思います

 ——— なるほど。ただ「決まりだから」と参加するのではなく、地域を守ったり作ったりする意識が自分たち自身の暮らしを豊かにするんですね。

高永さん
そうです。暮らしを考えていると、どうしても未来にばかり目が向いてしまいがちですが、過去と未来はつながっていて未来を知るためにその地域の過去を知ることが役立つこともあります。もしどこかに移り住んで新しい生活を始めようという人がいれば、そんな意識を持つと良いかもしれません

 ——— 本日はありがとうございました。仕事についてだけでなく、ワクワクするお話をたくさんお聞きできました。

これからの働き方や暮らし方を変えていくヒントに

地方創生に関連した法律が成立したことを一つのきっかけに、2015年以降、東京一極化を見直そう地方を盛り上げようという気運が高まってきました。地方移住出身地へのUターンを考える人が増えたり、「田舎暮らし」「地方でスローライフ」といった言葉を書籍や雑誌などで目にする機会も増えてきているように感じます。さらに2020年はコロナ禍を受けて、「在宅ワーク」「テレワーク」といった言葉をキーワードを中心に、働き方や暮らし方を見直そうという変化が多くの場面で見られました。

そういった変化がある一方で、実際に自分自身の働き方や暮らし方を変えるにはまだまだ大きなハードルがあると感じているのは、きっと僕だけではないだろうと思います。

言葉としては知ってるけど、実際にその働き方で暮らしていけるの?

家にいながら個人でどうやって仕事を見つけるの?

そういった疑問や不安を持つ人にとって、実際に在宅ワークをしている方から話を聞いたり具体的に疑問を解決できる場面は、あまり多くありません。

今回10年以上在宅ワークで働いてこられた高永さんにご登場いただき、DTPオペレーターの仕事内容だけでなく、企業に属さず個人で働くことや、勤務場所にしばられず全国中の仕事を手掛ける働き方について、具体的な経験談をうかがうことができました。

地元の韮崎に戻りたいけれど働くことが不安で踏み出せずにいる方、あるいは、新しい地域に移り住んで暮らしていくことにまだ具体的なイメージが持てずにいる方にとって(僕もそのうちの一人です)、これからの働き方や暮らし方を前向きに考える大切なヒントを教えてもらえたような気がしています。