「みんなの本棚」2022年10月号|大村記念図書館

 【編集部のつぶやき】 

夕焼け空のコントラストが美しくその姿に見惚れ、ススキの野をわんぱくに飛び交うトンボたちに少年心をくすぐられ、朝夕は十人十色な美しい虫たちの声に心を癒される…。

秋になるとちょっぴり寂しい気持ちが込み上げてきますが、同時に静けさの中にある自然からの贈り物に心をギュッと掴まれる瞬間に出会える…特別な季節のようにも思います。

さて、読書の秋・スポーツの秋・食欲の秋・芸術の秋…と、この季節には様々な楽しみ方があります。普段読書をされない方も、これを機に図書館や書店で心惹かれた1冊を手にとり、言葉の海を泳いでみてはいかがでしょうか。

 

加藤館長の今月のイチオシ!

国宝(上・下)

著者:吉田修一  出版社名:朝日新聞出版

あらすじ

『悪人』『怒り』で知られる作家・吉田修一が作家生活20周年記念として発表した新聞連載小説で、芸術選奨文部科学大臣賞、中央公論文芸賞を受賞。1960年代半ばから時々の世相を取り入れ、極道の世界から上方歌舞伎の重鎮に見いだされて梨園に入った美貌の役者と、その名門の家に生まれ育った嫡子の関係を軸に、華やかな世界の表と裏、栄光とスキャンダルをドラマティックに描いています。

夫々の芸の道を究める男達の道行と彼らを取り巻く人々の悲喜こもごもの人生を独特の文体に乗せ、様々な歌舞伎の演目に重ねて語り尽くします。青春篇・花道編の巻に分かれ、物語の舞台も長崎から大阪、東京へと移り、まさに大河小説と呼べる作品です。

 

館長が語る「ここがすごい!」

社会に出てから様々な舞台を観ており、歌舞伎も、歌舞伎座建て替え前後までの約30年間観続けていたので、注目の小説でした。

ヤクザの抗争場面から物語が始まりますが、降る雪の白と赤い血のコントラストといった様式美が描かれ、冒頭から心を掴まれます。歌舞伎役者の話なので、作品中に歌舞伎の有名な演目が登場し、人物の生き様と重なり、心情が深く感じられる心憎い演出。

とはいえ、歌舞伎作品の解説も盛り込まれ、歌舞伎を知らない人も取り残されない工夫がされています。架空の役者の話ですが、元ネタやモデルも浮かんできて、歌舞伎に詳しい方は、より楽しめる内容に。

元々新聞小説なので、場面転換が細切れで、連続した盛り上がりを意識して書かれ、読者を飽きさせません。文体の「です・ます調」に多少違和感はあるものの、それがこの小説を“語り物”として見聞きしているような効果を上げ、起伏の激しい展開もわざとらしくなく受け止められます。

読後、歌舞伎熱が再燃。皆さんも、この作品をガイドに、一度歌舞伎をご覧になってはいかがでしょう。 ちなみに、来月11月から歌舞伎座では、山梨・市川三郷町とも縁のある市川團十郎の襲名披露公演が行われます。

 

場所 背ラベル
一般 棚16 Fヨ

※ 上記のエリアもしくは、「みんなの本棚」特別ブースに展示されています。

 

親子で読みたい絵本

だんごどっこいしょ

作:大川悦生 絵:長谷川 知子
出版社名:ポプラ社

あらすじ
むかしむかし、山の小さな村のぐつという名の男の子のおはなしです。ぐつは「かまどの番をしていておくれ。」「まちのおばさんのところへ、ふろしきづつみを届けておくれ。」など、ばあちゃんに次々にお手伝いをお願いされます。

ぐつがふろしきづつみを届けると、町のおばさんは感心して、ぐつにごちそうを出してくれました。それはあまりに美味しかったので、ばあちゃんにも作ってもらおうとするのですが…。

 

赤松さんが語る「ここがすごい!」

ばあちゃんのお手伝いを一生懸命にするぐつですが、ばあちゃんの説明通りには事が進まず、子どもならではの困難が付きまとい、ぐつの行動に頬が緩みます。

この本は、10年以上前に地元の図書館のおはなし会で読み聞かせてもらって以来、お月見の時期になると思い出す大好きな1冊です。

地味な装丁ですが、よく見るとぐつの目の中に秘密の何かが映っているのでぜひ見つけてください。

 

場所 背ラベル
絵本創作日本 Eハ

※ 上記のエリアもしくは、「みんなの本棚」特別ブースに展示されています。

 

10代で出会いたい本

風が強く吹いている

著者:三浦しをん 出版社名:新潮社

あらすじ

走(かける)と灰二。走ることに魅せられた大学生2人の出会いをきっかけに、下宿「竹青荘」の仲間たちを巻き込んで箱根駅伝への無謀な挑戦が始まる。陽気な双子のジョータとジョージ、留学生のムサ…。

性格も体力もバラバラの10人は、ひたすらに走り、予選会を突破する。思いがけないアクシデントが続発する箱根路で、彼らは襷をつなぐことができるのか?

 

日向さんが語る「ここがすごい!」

学年で一、二を争う鈍足の私にとって毎年秋の「強歩大会」と「授業でのマラソン」はとても憂鬱なひと時でした。皆が走り終わったのちに1人きりで走る切なさと恥ずかしさったらありませんでした。

それなのに、駅伝をテーマにした本書のことは、出会った時から今でも大好きです。なぜだろうと考えたとき、いくつかの理由が思い浮かびます。

まず1つは、舞台が襷をつなぐ駅伝であること。1人で走るけれど、決して1人ではない。お正月に中継される実際の箱根駅伝も、毎年かたずをのんで見守ってしまいます。それだけに後半描かれる箱根路の様子を臨場感たっぷりに読むことができます。

そして、彼ら10人がとても魅力的に描かれていること。最初に読んだ時には走と灰二を中心に読んでいましたが、いやはや私に1番近いのは漫画好きでほぼ走ったことのない王子か、見栄を張るキングか。彼らの焦りや不信、迷い、家族のこと、就職活動のこと…。読むたびに、新たな一面を見つけています。

学生時代、皆さんが「これが自分の青春だった」と誇れるものを何か見つけられたら幸いです。図書館の本からもそのきっかけが見つかるかもしれません。

 

場所 背ラベル
展示3(DVDコーナー) Fミ

※ 上記のエリアもしくは、「みんなの本棚」特別ブースに展示されています。

 

大人が読みたい本

ここが家だ ベン・シャーンの第五福竜丸

絵:ベン・シャーン 構成・文:アーサー・ビナード
出版社名:集英社

あらすじ

1954年1月22日、第五福竜丸は23人の漁師を乗せて焼津漁港を出港した。東へ南へまた東へ、マグロを探してまた南へ。そしてマーシャル諸島をめざし、ついにマグロのむれに出会う。

1954年3月1日、夜明け前…、西の空が真っ赤にもえた。それはマーシャル諸島のビキニ環礁で行われた水爆実験。近くで操業していた第五福竜丸の船員全員が、死の灰を浴びた。

 

鈴木さんが語る「ここがすごい!」

リトアニア生まれのアメリカ美術の巨匠と、アメリカ生まれの日本語詩人が、日本の第五福竜丸事件を絵本にしました。そして1人の日本人作曲家がこの絵本と出会い、1つの曲が生まれました。

「ラッキードラゴン」…絵本の中の1枚の絵から付けられたそうです。英題は「忘れてはならない記憶」。この曲に絵本の内容の語り(部分的に)を付けたものを、今回、本と共にご紹介します。

ラッキードラゴン ~第五福竜丸の記憶~(語り:岡田健志)/福島 弘和 作曲 川越奏和奏友会吹奏楽団 https://www.youtube.com/watch?v=KpBZS2doUFU

“この物語が忘れられるのをじっと待っている人たちがいる”(本の帯より引用)

今も世界のどこかで行われている核実験。第五福竜丸の記憶を忘れさせないために語り継ぐ。

 

場所 背ラベル
知育 JEシ

※ 上記のエリアもしくは、「みんなの本棚」特別ブースに展示されています。

 

10月の季節展示から厳選!

スタイルズ荘の怪事件

著者:クリスティ 訳:能島 武文
出版社名:新潮社(版元品切れ)

あらすじ

英国エセックスのスタイルズ荘で深夜、当主のエミリーが寝室で変死します。検死で毒殺と判断され、当初はエミリーの再婚相手アルフレッドに嫌疑が掛けられます。

寝室は内側から鍵が掛けられていて、(1)粉々に割れたコーヒーカップ、(2)大きく割れたランプのホヤ、(3)暖炉上の乱れた紙縒り、(4)ドアの施錠部に引っかかっていた濃い緑の布の切れ端といった手掛かりが残されていました。

また死の直前には、(5)遺言状が書き換えられ、(6)エミリーと長男の口論が聞かれ、(7)アルフレッドの危険性を警告したメイドが同荘から出て行く、といった出来事が起こっています。 本作で初登場する名探偵ポワロは、1~7の要素を基に推理を組み立て犯人を特定していきます。

 

篠原さんが語る「ここがすごい!」

本作のすごさは、何重にも張り巡らさせた伏線が、1通の「手紙」によって全て回収されることです。その手紙は、物語の始めから読者にも提示されていました。ずっと「そこにあった」のです。

手紙がどこにあって、どんな役割を果たしたのか。

ポワロは犯人について、パートナーのヘイスティングスに、「非常に知能のある人ですね。我々は、頭を働かして、その人が、我々の頭がいいと怪しまないようにしなくちゃなりませんぞ」と話します。

読者のみなさんも「灰色の脳細胞」を働かせて「秩序と方法」を重んじさえすれば、薬品に関する専門的な知識が難点ですが、謎が解ける構成になっています。

ポワロとともにこの謎に挑んでみてはいかがでしょう。

10月の季節展示は「拝啓、図書館からお手紙です
はるか昔から、人々は手紙を書いてきました。平安の世では思いを歌に届け、現代でも形は変われど様々な手紙が世界中を行き交っています。 『あしながおじさん』『こころ』などの文学作品や手紙の書き方の指南書まで、手紙に関する様々な資料を展示します。 この機会に、誰かへ手紙を書いてみませんか?

[展示期間:10月1日(土)~10月27日(金)まで]

 

にらレバ編集部のおすすめ

哲学者とオオカミ 愛・死・幸福についてのレッスン

著者:マーク ローランズ 翻訳:今泉 みね子
出版社名:白水社

あらすじ

野生と哲学の対話から見えてくる、人間という存在の新たな在り方。気鋭の哲学者が、仔オオカミと出会い、共に生活し、その死を看取るまでの驚異の報告。

野生に触発されて著者は思索を深め、人間存在についての見方を一変させる画期的な研究を結実させる。

 

西田が語る「ここがすごい!」

本書の第1章に「もっとも大切なあなたというのは、自分の幸運に乗っているときのあなたではなく、幸運が尽きてしまったときに残されたあなただ」とあり、最後の章には「人生で一番大切なのは、希望が失われたあとに残る自分である」という文章があります。

これが何を意味しているかは、本書を読み進めていけばわかると思うので、ぜひそんなことも考えながら読んでもらいたい1冊です。

 

場所 背ラベル
一般棚29 489.5ロ

※ 上記のエリアもしくは、「みんなの本棚」特別ブースに展示されています。

 

大村記念図書館からのお知らせ

\おはなし会/
図書館読聞かせコーナーにて季節の絵本の読み聞かせを行います。
また、おはなし会に参加された方にはおりがみと折り方の解説をプレゼントします。おうちでおりがみを楽しんでください。
【開催期間】10月8日(土)14:00〜14:20

※対象は、対象は、マスクの着用が可能な「2歳~小学校低学年」のお子さん(申込み不要) 

\武田の里まつり フェスタ韮崎2022出店/
図書館のブースにて、除籍となった雑誌数種類を1冊10円にて販売します。
※ イベント情報はフェスタ韮崎のホームページをご覧ください。
【開催期間】10月9日(日) 

\大人の為の朗読会・朗読のつどい/
ニコリ3階「多目的ホール」にて、市内3つの朗読ボランティアグループの方々にご出演いただき、成人一般、学生、目の不自由な方などに向けて朗読会を行います。(申込み不要)
【開催期間】10月15日(土)14:00〜15:00

※コロナウィルス感染拡大防止に伴う利用規則として入場者は、氏名・連絡先・住所の記入が必要となります。予めご了承ください。 

【図書館祭り&ハロウィンイベント】

\大人の創作イベント クリスタルチャーム創り/
ニコリ「会議室9」にてクリスタルチャーム作りを行います。どちらかの時間をお選びください。各回とも同じ内容です。
・10月8日(土)から韮崎市立大村記念図書館カウンター、または電話(0551-22-4946)にて受付。(先着順)持ち物は必要ありませんが、お好きなレジン用の材料をお持ちいただいてもかまいません。
・作品の受け渡しは 11月3日(木)以降。
(対象:中学生以上/定員:各回81名)
【開催期間】10月29日(土)10:30、14:00~(各回1時間程度) 

\図書館祭り講演会/
「『おなあしゃう』は『おんなし』のこと?ひとつの文献から考える甲州方言の面白さ」
ニコリ3階「多目的ホール」にて、山梨郷土研究会元事務局長の望月健男氏に享保年間の甲斐の人々をユーモラスに描いた柳沢淇園の著書『ひとりね』を解説いただきます。10月1日(土)から韮崎市立大村記念図書館カウンター、または電話(0551-22-4946)にて受付。
(先着順/定員:50名程度)
【開催期間】10月29日(土)15:00〜16:30 

\アロマ&折り紙で簡単ハロウィンカード(子ども向け)/
ニコリ2Fイベントスペースにて折り紙やシールでハロウィンカード作ります。各回とも同じ内容です。
事前申し込み不要。開催時間中随時受付(各回終了15分前まで)
※会場の最大人数(8組)に達した場合はお待ちいただきます。
共催・韮崎市子育て支援センター
【開催期間】10月29日(土)、30日(日)10:30、14:30~各回1時間程度 

上記イベントについての詳細は、チラシ、またはホームページをご覧ください。

※新型コロナウイルス感染拡大の影響により内容が変更になる可能性があります。
最新情報は図書館まで、お問い合わせください。(韮崎市立大村記念図書館:0551-22-4946)

 

大村記念図書館の基本情報

所在地 : 〒407-0015 韮崎市若宮1丁⽬2番50号
営業時間: 平日・土日祝日 10:00~19:00
電話番号: 0551-22-4946 (FAX)0551-22-4950
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