韮崎の中心街から舟山橋を渡り、南アルプス市方面に向かう道沿いにあるアパートの前を通ると、“手作りキムチ”と書かれた黄色い看板が目に飛び込んでくる。
「あのお店は一体...?」「アパートの中でキムチ?」と私の友人の間でも何度も話題に上がっていたその店に、昨年、私は勇気を出して訪ねてみた。
そのときに買ったキムチやチャンジャがすごくおいしくて、「アジュモニ」という名のこのお店を、“いつか絶対に取材しよう”と心に決めたのだった。
寒くなってキムチ鍋が美味しい季節が近づいてきたので、「今が絶好のタイミング!」と思い、今回のよりみちでは、アジュモニを訪ねて店主の華山さんにお話を聞いてきた。
目次
韮崎のアパートの一角に本格キムチのお店がある理由
アジュモニは、県道42号線沿いのアパートの一階の一室にある。
「こんにちは〜!」と店内に足を踏み入れると、「こんにちは、今日はいいお天気で」と店主の華山さんが優しい口調で出迎えてくれた。
華山さん:「こんな小さなお店に取材に来てくれてありがとうございますね。ここ、入るのに、ちょっと勇気がいるでしょう。前に若い女性のお客さんに、『今日は勇気を出して来てみました』って言われたこともあるんですよ(笑)」
窪田:「確かに、初めて来たときは少し緊張しました。(笑)誰もが気になるポイントだと思うのですが、なぜアパートの中でキムチ屋さんを?」
華山さん:「もともとは甲府の上石田で、母と一緒にお店をやっていたんです。始めたのは、もう30年くらい前かな。母が亡くなってから、お店は一度閉めてしまったんだけど、飲食店を経営していてずっと取引をしてくださっていたこのアパートの大家さんが、『やめるなんて言わないで、ここでまたキムチをつくって、うちに卸してよ』と声をかけてくれたのよね」
窪田:「ここでお店をしているのには、そういう経緯があったんですね」
華山さん:「それで5年前ほど前に、ここで再出発したの。大家さんには、すごくお世話になっているんですよ。それに、今でも当時のお客さんが看板を見かけて、『もしかして...』と入ってきてくださることもあって。本当に、みなさんに支えられているんです」
窪田:「昔から、多くの人に愛されるお店だったんですね。再出発の場所が韮崎だったことで、こうして私もこのお店に出会うことができて嬉しいです」
豊富なメニュー!アジュモニの美味しいキムチを実食!
窪田:「前に来た時は、白菜のキムチの甘口・辛口の両方とチャンジャを買って食べたんですけど、どれもすごくおいしかったです。」
華山さん:「ありがとうございます。そう言っていただけると嬉しいわ。他には、オイキムチ(きゅうり)やカクテキ(大根)、ニラキムチなんかもあるんですよ。よかったら、食べてみる?」
窪田:「え!いいんですか!?」
華山さん:「もちろん!せっかくだから、全種類味わってみてちょうだい」
窪田:「ありがとうございます!!!(感激)いただきますっ!」
食材の旨味が凝縮されたキムチ。筆者のお気に入りは「甘口」
窪田:「あ〜...噛めば噛むほど美味しいですね…幸せです…」
華山さん:「どれがお好みかしら?」
窪田:「どれも美味しくて、甲乙つけがたいです...強いて言うなら、甘口のキムチかなぁ...。甘口と言っても、『甘い!』って感じではないですよね?」
華山さん:「甘口と辛口は、ベースの辛さは変わらないんですけど、甘口には果物が入っているから、その甘味が感じられるんですよ。他にも白菜の葉の一枚一枚の間に、ぎっしりと具が入っています」
窪田:「果物!?そもそも、キムチって何が入っているものなんですか?」
華山さん:「うちで使っているのは、唐辛子、ニンニク、あみの塩辛...色々な物が入っていますね。お店や家庭ごとに、秘伝の調味料や香辛料の配合があります」
窪田:「シャキッと爽やかなオイキムチも、大ぶりで大根の甘味が堪能できるカクテキも最高ですね。ニラキムチも、お豆腐の上に乗せるだけで居酒屋気分を味わえそう…」
華山さん:「キムチは、野菜がたくさん摂れていいわよね」
窪田:「使っている食材にも、何かこだわりがあるんですか?」
華山さん:「国産の食材を使うようにしていて、にんにくは青森産のもの。白菜は、季節ごとに産地を変えているんです。冬は高原野菜の美味しい季節だから、これからまた楽しみね」
発酵をたのしんでお好みのタイミングで
窪田:「キムチって、購入してからどのくらいの期間、おいしく食べられるものなんですか?」
華山さん:「賞味期限は2週間と表示しているんだけど、漬物だからいきなり食べられなくなるわけではないんです。うちで販売しているキムチは、浅漬けの状態で、ここから一週間くらいして乳酸発酵が始まるの。徐々に酸味が出てきて、そのまま置いておくと、葉っぱに透明感が出てきて、ピクルスみたいに酸っぱくなってくる。浅漬けが好きな人もいれば、旨味の詰まった酸っぱいのが好きな人もいるから、味の変化も楽しんで欲しいなって思います。」
窪田:「少しずつ味を見ながら、自分なりの食べ頃を判断するのが良さそうですね。発酵の具合によって、色々な味が楽しめるのも面白いですね」
母から学んだレシピと料理への姿勢
窪田:「キムチの専門店って珍しいなって思うんですけど、どういうきっかけで始めようと思ったんですか?」
華山さん:「うちは両親が韓国人で、日本の家庭で漬物を漬けるのと同じように、昔から我が家ではキムチを手作りしていたんです。母のつくるキムチはとっても美味しくて。それに、母は自分のつくった料理を人に食べさせるのが大好きな人でもあったから、私が『キムチのお店をやろうよ』と母に提案したんです」
窪田:「お母さんは、お料理上手で面倒見のいい方だったんですね」
華山さん:「挨拶の言葉が『ごはん食べたの?』で、人が来るといつも何か作って食べさせていてね。今思えば、亡くなる前にもっと色々なことを聞いておけばよかったな…」
窪田:「今もキムチ作りは、お母さんのレシピで?」
華山さん:「もちろん、作り方は母に教わったんだけど、母は目分量とか感覚でやっていた部分も多くて。漬物って塩漬けの加減がむずかしいんだけど、季節によって葉っぱが肉厚のときもあれば薄いときもあって、毎回決まった塩の量というわけにはいかないんです。なかなか母のようにはできなくて...まだまだ修行中です」
窪田:「今でも十分おいしいです!きっと、お母様から受け継いだ想いがたくさん詰まっているんだろうなぁと思いました」
華山さん:「母はよく、『家族に作っているときと同じ気持ちでつくりなさい』と言っていたのよね。だから、もちろん保存料や着色料、香料などの添加物は一切使わないし、洗い方ひとつにしても、丁寧にするように心掛けているのよ」
窪田:「味に深みがあるのは、丁寧に作られているからなんですね」
キムチはどんな料理にも合う万能選手!
華山さん:「キムチって、意外とどんな料理にも合うのよね。バターやチーズなどの乳製品にも合うし、お豆腐や納豆などの大豆製品にも合うから、お味噌汁に入れてもおいしいの。」
窪田:「お味噌汁は初めて聞きました...!私は前回、チャンジャをチャーハンに入れてみたんですけど、すごくおいしかったです」
華山さん:「チャンジャは小分けにして、冷凍する人もいるみたい。ちょっとずつ解凍して、お酒のおつまみにしたり、お料理に入れたり。この間いらしたお客さんは、『キムチとワインが合う』って言っていたわ」
窪田:「ビールはわかるけど、ワインも合うんですね...!今度、キムチ鍋とワインを合わせてみようかな」
Blogでおすすめレシピをチェックしよう!
窪田:「普段から、お客さんにおすすめの食べ方を紹介したりしているんですか?」
華山さん:「私が教えるよりも、お客さんに『こうやって食べたらおいしかったよ』って教えてもらうことの方が多いかしら。あとは、おすすめの食べ方やお店のことを、インターネットで発信しているんですよ」
窪田:「ブログに乗っているレシピ、どれもおいしそうですね。まだ知らない味の組み合わせが、たくさんありそうな予感…!」
華山さん:「ぜひ、試してみてくださいね。最近ネット販売も始めたから、そちらもどうぞよろしくお願いします」
よりみちのかえりみち
「今日はごちそうさまでした!本当に美味しかったです!」と、まるでご飯にお呼ばれした日の帰り際のような挨拶をして表に出る。
私がキムチを頬張っていると、「ザクッザクって、いい音ね」と目を細め、「ご飯も炊いておけばよかったわね。失敗した〜!」と悔しがる華山さんは、自分の料理を人に振る舞うのが好きだったお母さんの血を、しっかりと継いでいるに違いない。
作り手の顔がわかる食べ物は、安心感と特別感が感じられて、食卓に並べるだけでも、どこか幸せな気持ちになれる。華山さんの優しい人柄に触れた後だと尚更だ。
今年の冬は、アジュモニの絶品キムチをさまざまな料理に活用して、心身共にポカポカに温まろうと思う。
アジュモニの基本情報
- 所在地:山梨県韮崎市龍岡町下條東割1569-3コーポ大木105
- 営業時間:10時〜18時30分
- 定休日:火曜日
- 電話番号:080-8080-2935
- SNS:HP、Instagram、Facebook、Twitter