まるで宝探し!?『藤井屋瀬戸物店』で日常を彩る「お気に入りの器」をみつけて

今回よりみちしたのは、本町通り商店街にある「藤井屋瀬戸物店」

以前、木工作家の野田沙織さんのリレー記事で紹介されていて、記事を読んだ友人たちから、「あの陶器屋さん、行ってみたけどよかったよ!」という感想を何度かもらった。

「瀬戸物店」という言葉になんとなく入りにくさを感じていた私も、勇気を出して足を運んでみたら…噂通り、掘り出し物がたくさん!

さらに、店主の岩下夏樹さん・正子さん夫妻もとっても気さくで話しやすく、居心地の良いお店だった。

それから何度か足を運んでいて、今となっては、ここで購入した茶碗、お皿、木蓋など、さまざまなアイテムが、我が家で大活躍している。

今回は、そんな私のお気に入りのお店「藤井屋陶器店」によりみちしてきた。

「藤井屋瀬戸物店」ってどんなお店?

まるで宝探し!国産品の焼き物がずらっと並ぶ店内

器がずらっと並ぶ店内

藤井屋瀬戸物店の店内には、有田焼き、九谷焼き、京焼き、萩焼など、国産品の焼き物の数々が、所狭しと並んでいる

この中からお気に入りを見つける作業は、まるで宝探しのよう。店内に足を踏み入れる瞬間はいつも、「今日はどんなものに出会えるかな」というワクワクした気持ちになる。

ガラス製のカップ&ソーサー

まず、最初に目に飛び込んできたのは、黄色とオレンジの花柄がかわいい、ガラス製のカップ&ソーサー
上の写真のような、昭和の家庭で親しまれていたような、レトロなデザインの商品がたくさんあるので、眺めていて楽しい

パフェグラス

喫茶店巡りが趣味である私としては、見落すことのできないパフェグラス
アイスクリームとフルーツを盛れば、家庭でパフェを楽しめるなんて、とっても魅力的ではないか!(そして、ダイエットの強敵でもある...)

小皿が並ぶ様子

おちょこや小皿などは、100円代〜という驚き価格。それ以外の商品も、「この価格でいいの!?」と感じるものばかり。

中には、数万円する壺など高額な商品も並んでいるが、その立派な見た目から察するに、きっと世に出回っている価格よりも低めに設定されているに違いない。

「一つ一つが我が子のよう」瀬戸物愛溢れるご夫妻

茶碗が並ぶ様子

正子さん:「この前来てくれた時、このお茶碗買っていってくれたよね?

商品棚を眺めていたら、奥さんの正子さんにそう声をかけられた。隣では、2代目店主の夏樹さんが、やさしい笑みを浮かべている。

夏樹さんと正子さん

正子さん:長年ここにいると、ひとつ一つの商品が、我が子のようにかわいく思えちゃうのよね。お買い上げいただいたときは、自分の子どもをお嫁に出しているような気持ちだから、記憶に残っているの」

正子さんはそう言って、目を細めながら棚に並ぶ器を眺める。そのやわらかな表情から、店頭に並ぶ商品を大切に思っていることが伝わってきて、素敵だなと思った。

知識豊富な夏樹さんに焼き物の背景を聞いてみよう

萩焼の湯呑みセット

夏樹さん:萩焼の多くは、高台(足の部分)に切り込みが入っているんだよね。江戸時代は萩焼は藩の御用窯で、庶民が使うことは許されなかったんだ。そこで、切り込みを入れることで、わざと“傷もの”として、庶民も使えるようにしたと言われているんだよ」

子どもの頃からこの店の焼き物に囲まれて育った夏樹さんは、焼き物の歴史や窯元についての知識が豊富だ。その物がつくられた背景を聞くと、物への愛着が一層深まる気がする。

「これってどういう焼き物なんですか?」と質問するといろいろ教えてもらえるが、基本的には「どうぞごゆっくり」という感じに、いい意味で放っておいてくれるので、緊張感を持たずに済むのもうれしいところだ。

藤井屋陶器店と韮崎のまち

藤井屋瀬戸物店誕生の秘話

外観

藤井屋瀬戸物店の前身「ふじいや」は、明治時代から煙草や荒物を販売していた。

しかし、鉄が使われている鍋や鋏などの商品は、戦時中に飛行機や軍艦をつくるために、一つ残らず回収されてしまったという。

そこで「陶器ならば回収されないだろう」と、夏樹さんのお父さんが、昭和22年に新しく始めたのが、この「藤井屋陶器店」だった。

商店街

夏樹さん:当時、この辺りは賑やかで、うちも忙しい時にはアルバイトを雇わないと回らないくらいお客さんが足を運んでくれてね。周りにお店もたくさんあったのに、今は数えるほどしかなくなってしまって、本当にさみしいよ」

かつて宿場町として栄えていた韮崎の商店街には、今は想像もできないくらい、たくさんの店が並んでいたそうだ。

商店街の賑わいが薄れ、店を畳む人が増えていった中で、夏樹さんと正子さんは一生懸命この店を守ってきた。

どこも頭を悩ませる後継者問題

しかし、なんとここ藤井屋瀬戸物店も、夏樹さんの代で閉めることが決まっているのだという...

店主の夏樹さん

夏樹さん:「この店は後継者がいないから、僕らの代で終わりにする予定なんです。体が動くうちは、楽しみの一つとして続けたいと思っているけど、あと何年持つことか...」

正子さん:「私は、ここで人と関わるのが好きなのよね。お客さんたちの話を聞いたり、人間模様を眺めたりしていると、『あったかいなぁ』『まだまだ捨てたもんじゃないなぁ』って思うの。30年も店頭に立っていると、幕の引き時がわからなくて困っちゃう」

2人の言葉と表情には、お店に対する愛の深さが滲み出ていた。

焼き物を求めて市外から足を運ぶお客さんや、夏樹さんや正子さんに会うことを目的に訪れる人も多いそうで、そうした人々の楽しみが減ってしまうことを考えると、とってもさみしい気持ちになる。

こんな時期こそ、気持ちを明るくするアイテムを

正子さん

最後に、正子さんは、世の中が新型コロナウイルスに脅かされている今だからこそ、お気に入りの器を見つけてほしいと語ってくれた。

正子さん:「お皿が一つ増えるだけで、『何を盛ろうかな』と料理がたのしみになったり、食卓が華やかになったりするじゃない?
気軽に外食しづらい時期だからこそ、3度の食卓で前向きになれるアイテムを、生活に取り入れてみてほしいなって思うのよね」

よりみちのかえりみち

この日は、白浜焼きの器を一つ購入し、幸せな気持ちで家に帰った。

正子さんも言っていた通り、お気に入りの器を手にすると、心が癒されたり、明るい気持ちになれたりする。こんな時期だからこそ、そんな小さな幸せを積み重ねていきたいなぁと思う。

購入した白浜焼の器

夏樹さんによると、後継者問題は売る側だけでなく、つくる側にもあるそうで、職人さんの高齢化により、すでに閉鎖してしまった窯元も多いそう。

藤井屋陶器店に並んでいる商品も、同じものを仕入れるのがむずかしい商品ばかりだという。

大好きなこのまちで出会えた素敵なお店が、いつかは閉じてしまうのだと想像するととてもさみしい気持ちになる...。

長くに渡り、この素敵なお店を続けてくれていることに感謝をしながら、これからも素敵な食器と出会えること、ご夫婦にとお話しできることを楽しみに、何度も通いたいと思う。

「藤井屋瀬戸物店」の基本情報

  • 所在地:山梨県韮崎市本町2丁目10−4
  • 営業時間:9時から19時(変動あり)
  • 定休日:なし
  • 電話番号:0551-22-0406