社員のアイデアが次々と業務を改善!「変わっていく社会だからこそ若い社員や外の人の声を聞く」株式会社ササキ


「なにもしないことは現状維持にはならない」

川上和人さんの本の中にこの言葉を見つけ、思わずメモをしたことがあります。向上どころか、現状維持すらままならないなんて・・・。

「そんなに厳しいこと言わなくても・・・!」と若干の反発すら覚えつつもチクリとその言葉が心に刺さった気がしたのは、自分にも思い当たる節があったのだと思います。

1日1日を精一杯生きていても時間は足早に駆け抜けていき、過ぎ去った日々の中に、なにもせず放置されたままの課題がいくつも取り残されているような気がするのです。

そこで今回は、日常的に「新しいこと」を取り入れるために独自の仕組みが導入されていると話に聞く「株式会社ササキ」さんにうかがい、二代目代表取締役社長である佐々木啓二さんにお話をお伺いしてきました。

なにもしないこと=衰退

だとすると、ササキはその真逆。
新たなアイデアを取り入れて日々前進し続けている会社なのです。

株式会社ササキの外観


株式会社ササキ

創業平成7年。韮崎市穂坂町の他に宮城にも事業部を持ち、総社員数は約270名。
iPhoneや冷蔵庫などの電化製品、LEDなど、いたるところに使われていて今や生活に欠かすことのできない「半導体」の製造装置など、産業機器に使うハーネス・ケーブルの製造(加工)を行っている。
子どもたちに最新の技術に触れてもらいたいという思いから、韮崎東西の中学校に電子黒板を寄贈するなど、次世代育成や地域への貢献にも力を入れている。電話で予約をすれば、個別見学も対応可。
※ハーネス・ケーブルとは、電源供給や信号通信に用いられる複数の電線を束にして集合部品としたもの。

ケーブルの写真

今回訪れたササキでつくっているハーネス・ケーブルは、iPhoneなどに使われる半導体をつくるための機械や宇宙航空機器などに使われています。私たちの現在の生活を支え、未来を引っ張っていくであろう最先端の技術を持ったササキは、働く環境をアップデートしていく仕組みも最先端でした!

その仕組みの秘密に迫るべく、まずは佐々木社長に社内を案内していただきました。

みんなでつくりあげた基地

部品庫の写真

ケースの表面に部品番号を記載して探す手間を省く工夫

佐々木さん:
うちでは社員のアイデアが形になって改善した箇所がたくさんあるんですよ。例えばこれ。うちでは数多くの部品を取り扱っているから、一目で中身がわかるようにケースに窓がついているんです。

部品ケースに見本を付けて探す手間を省く工夫

佐々木さん:
あとこれも。こうやってケースごとに見本品をつけておくと、部品を取りに来た時に、”多分これかな?”が見比べることによって、”絶対これだ!”に変わるんですよね。

部品棚に設置された収納できる机

佐々木さん:
この机も社員のアイデアでできました。ここに脚のある机を置いちゃうと、使わないときは邪魔になっちゃう。これだと必要な時にすぐに取り出せて、不要なときはしまっておけるから便利なんです。

机を収納した際の様子

机を使用しないときは収納できる

佐々木さん:
小さなことだけどこんなのも。重いって書いておくだけでも、持つ前に覚悟ができるから怪我の防止になるんですよ。
「重い」と貼られた部品ケース

少し意識をして辺りを見回すと、次から次へと出てくる”改善箇所”。その多くは社員からの改善提案が実現したものだと言います。

まるでそこは、社員のアイデアが詰まった”基地”

みんなで一つ一つコツコツとつくりあげてきた場所なのでした。

では、一体どうしたら、こんなに多くのアイデアが日常的に社員から生まれてくるのでしょうか。

株式会社ササキ作業中の様子

秘密は、”ササキ要望書”

社内改善アイデアの提案に用いられる要望書

佐々木さん:
うちには”ササキ要望書(改善)”というシートがあって、社員は誰でも思いついた改善点を書いて提出できるようになっているんです。案が採用されて成果が見えたら1案につき300円の報酬が出ます。
こうすることで月に10〜20件程の提案が上がってきていますね。会社側も従業員の熱が冷めないうちに素早くレスポンスをするよう心がけています。

この考えはものづくりの現場から生まれたQC(クオリティーサークル)という活動が元になっているそうです。
自分たちの働く場所は自分たちで改善し、働きやすい便利な場所をつくっていくというのがササキの考え。新入社員も入社当初からこの一貫した考えの元で働くので、自然とそれが身についていくのです。
そしてアイデアを形にするまでの流れがここまで明確化されているから、ササキの社員はその仕組みに沿って、立場や年齢に関係なく自由にアイデアを提案することができるのです。

さらにこの”ササキ要望書”には、もう一つのポイントがあると言います。

「リスク」と「リターン」を考える力

佐々木さん:
シートには、リスクとリターンを書くところがあって、そこまで考えてから提出してもらっています。費用対効果ってやつですね。

その改善の実施にはどういうお金がかかります、しごとをどのくらい止めなきゃいけませんっていうのが「リスク」。「リターン」は、それをやることによって10分かかっていた仕事が5分でできるようになります、10回繰り返せばもう元が取れますというようなこと。

ただ思いついたことを提案するのではなくて、かかる費用や時間、それに見合う成果を想定してもらっています。

アイデアを出すだけではなく、リスク・リターンも考える。
そうすることで考える力が育まれ、より良い仕事ができるようになる。

これはとても理想的な循環だと思います。

とはいえ、そもそもアイデア自体を思いつくのが難しそう・・・

アイデアが浮かぶ人はいいけれど、浮かばない人はどうすればいいのでしょう。

佐々木さん:
今は、Webの世界の中に、うまくいってる例なんてごまんとありますから。「なるほどこんな道具があるのか」とか「こんな機材があるのか」っていうのを見つけてきて、それを導入したらこんなに良くなるよっていうことを僕らに伝えてくれればいいんですよ。情報がないところから考えててもなかなかアイデアは湧いてこないですからね。

佐々木さんは、自身でもWeb上の様々な業界の記事を日々チェックしているのだと言います。世の中の何が問題点だったのか、そのプロジェクトの何が成功の秘訣だったのかを様々な記事から読み取り、自分の会社に活かせることはないかと常に考えているのだそうです。

社外の人の視点も取り入れる

ササキの社内が常に改善を繰り返していく秘密は、他にもあります。

それはこの、工場見学者に対する‟『気づき』シート‟です。

社内改善のため工場見学者に記入してもらう気付きシート

佐々木さん:
視察に来た人に対して、今日はこういう視点で見てね、いいところもわるいところも両方見ていってねって始めにお願いするんです。そうするとね、違う会社や違う業界の人たちって自分たちにはない視点で物事を見ているから参考になることがすごく多いんですよ。

これまでに、このシートによって改善された箇所がいくつもあったと言います。

ここまで徹底して、社内・外から常に新しい風が吹いてくる仕組みを整えている会社は珍しいのではないでしょうか。

どうしたらこのような仕組み自体をつくりあげることができるのでしょう。

佐々木さん:
こういうことをしている会社は世の中にはいっぱいありますよ。それはネットをたたけばなんぼでも出てくるし、うまくいっているところの事例って世に出ているものなんですよ。まずはうまくいっている例を真似してやってみるのが一番手っ取り早いんです。

自社に誇りを持ちながらも、他社の良いところはどんどん真似をする。他者からのアドバイスを受け入れて試してみる。この素直さと柔軟さが、会社をつくっていく上で重要なのだと感じました。これは社員が持つべき姿勢でもあると言えます。

佐々木さんはどのような社員を育て、どのような会社をつくっていきたいと考えているのでしょうか。

未来を担う若者たち

株式会社ササキの従業員の作業中の様子

佐々木さん:
僕は自分が将来どうなっていたいかなんて若い時は全然考えていなかったんですけど、今は社員のやる気が持続する仕組みをつくっていきたいなって思ってます。会社に入ってからも常に目標を持って過ごせたらいいなと思って。
そのために今、社内でもキャリアアップの道筋を整備しているところです。
佐々木さんたちは、課長・部長・本部長と管理職が昇格していくように、ものづくりの職人にも昇格できる仕組みが必要だと考えました。スペシャリスト、マイスター、マエストロというように、職人も技術や取得した資格によって段階分けすることで、目標を持って仕事ができる。その仕組みを今つくっているところなのだそうです。

佐々木さん:
僕らはこれからは若い人の意見を取り入れていかないといけないと思ってます。おっちゃんたちが決めていても、自分たちが経験したことの中からしかアイデアは出てこないから。時代が変わってきてますからね。残念ながら、僕たちの考え方は古いんです。

まだまだ世の中は変わっていくし新しいものはどんどん出てくるし全く終わりはない。僕らも全部がいいとは考えておらず、まだまだ試行錯誤しながらやっていくというのが正直なところです。

僕たちの考えは古い。

これだけの最先端な環境づくりをしてきたにも関わらず、きっぱりとそう言い切った佐々木さん。

その目からは、社員への信頼が確かに感じられました。

信頼しているからこそ、社員の声・若者の声をしっかりと取り入れていく

そして外の人の意見や世の中の出来事も自分たちの参考にしていく。

「まだまだ試行錯誤中」と控えめな言葉を使いながらも、その試行錯誤を楽しんでいるのだというように、佐々木さんはニカッと笑いました。
もちろん社長としての苦労は想像しきれないほどあるのだろうと思いますが、佐々木さんのまっすぐな視線の中には、まだまだ変わっていく世の中や変わっていく自分たちの未来への希望がはっきりと映っていました。

なにもしないことは現状維持にはならない。

逆説的に考えると、なにかしようとしている人の姿は美しいのだと思います。

そのためにあるべき姿勢や方法を、穂坂町という身近なところにある一つの企業から学んだ取材でした。

韮崎の先輩たちはきっといつでも佐々木さんのように、後輩のためなら快く話をしてくれると思います。過ぎ去っていく日々に疑問を感じたら、少し立ち止まって、辺りをじっくりと眺めてみましょう。ヒントは身近なところに潜んでいるのかもしれません。