山梨・韮崎(にらさき)に移住してきて2年が経とうとしている。
神奈川のニュータウンに住んでいた私は退屈な街と退屈な仕事から離れたくて移住をした。

退屈をGoogleで検索
仕事に対して退屈はわかりやすい。毎日、大きな変化のない労働の繰り返しには心も曇る。
ただ、街が退屈ってなんだ?
間違いなく街に退屈は感じてはいたけれど、なにを求めていたのだろう。
ニュータウンは相変わらずの状態が続くどころか激しく変化していた。
ただ、聞いたことあるチェーン店が閉店・開店を繰り返していることに心は全く動かなかった。
自分の行きつけの店が閉店したら心が揺れただろう。けど、行きつけはできなかったし作る気もあまり起きなかった。面倒だったのかもしれない。
街との関係性が築けていない孤独を感じつつも、関係を築くことに面倒も感じてしまう。
その相反する気持ちの折り合いをつけるため、まちをデザインしている人に話を聞きにいった。まちづくりを民間で行っている会社ニラサキヤのイベントである。
平日夜、商店街の空き店舗に集まった約40人の老若男女。
テーマは「まちづくり」「ネイバーフッドデザイン(住民同士の良好な関係性)」。
まちをデザインする会社が、別のまちをデザインしてる人を呼んで対話する。
そこでは一体どんな対話が繰り広げられ、私が街との関係性をどう考えたのか。
その一端をお伝えします。
イベント登壇者紹介
キーメッセージ
行政と民間のまちづくりの違いとは?
イベントではまず、韮崎の経営者たちによる共同出資で立ち上がったまちづくり会社『ニラサキヤ』についての説明が行われた。
立ち上げの経緯、なぜ商店街でホテルを始めたのか、実際にやってみてどうだったか、最近始めた不動産事業のこと、これからどうしていくのか…
その中で印象的だったのは、「行政と民間のまちづくりはそれぞれ役割が違う」という話。

スクリーンに投影された、行政と民間のまちづくりの役割の違いの図
この図を見て、そもそもまちづくりの実行主体はなにも行政だけではない、という考えてみれば当たり前のことに改めて気づかされた。
と同時に人口減による予算縮小かつ、成り手不足の現代において、災害から人口減少対策、PRまでその全てを行政がやっていくのは到底不可能で、民間との役割分担の必要性がよく分かった。
行政は行政にしかできないインフラや制度設計など土台部分を。
民間は行政の大きな方向性を理解しながらまちの価値創造につながる部分を。
それぞれが役割をしっかりと理解した上で、得意を活かして連携していくことが大事だと深く頷いた。
現に行政が民間のまちづくり会社と協働して行うまちづくりが全国的に増加してきているらしい。
韮崎にもやっとそういった団体が立ち上がり、これから価値創造の部分に向けてプロジェクトを推進していくという気概が説明からは感じられた。

会場には高校生~大人までが集い、熱心にメモを取りながら話を聞いていた
まずは商店街で当事者からはじめる
では、実際にニラサキヤが手がけた価値創造のためのプロジェクトとはどういったものなのだろうか?
説明の中では、価値創造の具体的な事例として、韮崎の商店街にある古いお茶屋さんと旅館、2棟をフルリノベーションして開業した宿泊施設「ニラサキヤSTAY」について紹介された。

2025年4月に韮崎駅すぐ側の商店街にオープン
韮崎の商店街はここ8年で37店舗の新規出店があり、リノベーションタウンと呼ばれるようになってきている。
ただそんな商店街エリアにもまだ空き店舗が残っていたり、せっかくお店が増えて来たのに泊まる場所が少ないといった課題があった。
それらの課題解決のために、そしてまずは自分たちも商店街で事業をはじめて、当事者としてこのまちのことを考えて行けるように、ホテル事業をスタートしたらしい。
ただのコンサル的な立ち位置ではなく、実際に地に足を付けて手を動かしていく。リスクを取って事業を展開していく姿勢は、地元の有志による集まりからなる組織ならではで心強い。

課題に対しての解決策だけでなく、価値創造まで図っている
また、実際に1年間ホテルを運営しながら、商店街の事業者さんや空き物件所有者にアンケート調査を行ってきたという。
そしてその調査を元に、“あるきたい、きたいある商店街”を目指そうというエリアビジョンをつくり、商店街の事業者さん同士のネットワーク化、勉強会の企画、行政への政策提言実施などなど…活動は多岐に渡る。
さらには、商店街の残りの空き物件と韮崎で事業をしたいという事業者を効果的にマッチングしていくために、2026年2月にはまちづくり型不動産『ニラサキヤYard』という新事業までスタートさせたというのだから驚きである。
良い関係性をまちづくり会社がデザイン
第2部では、一都三県でまちづくり事業を営むHITOTOWA INC.で代表取締役の荒昌志氏が登壇した。私が都市部に感じていた不満についてまちづくり会社はどう考えているのか。ネイバーフッドデザインを通じて明らかになった。
ネイバーフッドデザインにおける豊かな暮らし
都市部における課題としてはやはり関係性の希薄さのようで、住居や住民の出入りが激しいことが課題としてあるようだ。
コミュニティに関しては、その土地の関係性を「義務的なもの」と感じられることが多く、人々が積極的に参加したがらないという現状がある。
これにはかなり共感した。地域のイベントを面倒なものとしてしか認識していなかった。
首都圏の現状と課題について下の図でまとめてみた。

都市部の課題について筆者がまとめた図
この課題に”良い関係性こそが豊かな暮らしと良い街に繋がる”を信念にまちづくりを行っているのがHITOTOWAだと説明があった。
もしかしたら、まちと関係性を作れるイメージがあればイベントへ参加する気になれたかもしれない。
ただ、選択肢としてまちと新しい関係性を築いていこうというものがなかった。自分のような住民も少なくないはず。
関係性を築いていきたくなるまちについては、ネイバーフッドデザインの説明が回答になっていた。
ネイバーフッドデザインは性善説で設計されていない
ネイバーフッドデザインは良い関係性を構築することを目指している。
そんな良い関係性をデザインするのに重要なのは、性善説的に考えないことだと強調されていた。
人間関係を放っておくと、しがらみになったり無機質な繋がりになったりしてしまうため、意図的な「デザイン」が必要である。
デザインされたコミュニティは出入りの権利がある
私は関係性を築きたくて移住してきたが、他の移住者・定住者にはどのようなことが起こっているのか。
韮崎のコミュニティについて市長からの話が象徴的だった。

関係性の希薄さから定住が進まない都市部に対して、地方は関係性の濃密さによって定住ができない。
濃密な関係性は善意によるものだったはずが、出て行く結果になってしまった。
関係性も権利化することで濃密と希薄の間を目指す
この課題に対してどのようにデザインしていくかについて荒さんの発言を引用する。

今回のイベントは地域へ関わっていける権利である。無料で参加ができて、参加できなくても記事を通じて部分的な理解ができる。

誰でも参加ができる本イベント
このような選択肢を商店街以外にも増やしていくことが必要だと感じた。
ネイバーフッドデザインで描く韮崎って?
第3部では市長と荒さん、ニラサキヤの三者と会場のコメントで、韮崎のこれまでとこれからについてクロストークが行われた。
現在の韮崎をネイバーフッドデザインで再解釈
韮崎商店街と住民の関係性について、会場からのコメントがあった。
私も商店街を利用するのは県外からの友人が来た時など、特別な日に利用にすることが多い。
ただ、荒さんの見解は違った。

まちづくりには短期的な解決だけでなく、長期的な目も必要であることがわかる。
商店街と市民の関係性においては、市民の課題解決という直接的に深めるだけじゃない。
魅力を構築していった先に市民との関係性が築かれていく、間接的な深め方も存在することがわかった。
商店街と市民の関係性について、まちづくり会社ならではの未来を含めた視点である。
関係性を重視したまちづくりで韮崎にどのような変化が起こっていくのか。
これからの街の変化が楽しみになった。

空き店舗に戻ったイベント会場
ここまではイベントをダイジェスト的に紹介した。
ここからは
- 韮崎移住者である私の実感
- イベントを通じて考えた企画
を書いていく。
都市部からの移住者が感じる韮崎
移住してきて2年ほど暮らして求めていたものは手に入った感覚がある。常連のお店、好きな本屋、好きな場所など。
想像以上だったのは、いい景色だなと思うことが増えたことがかなり嬉しい。昼間は富士山がよくみえて、夜は月明かりで山の輪郭や星がよく見える広い空。
圧倒的な自然が毎日の満足感を高めるのは予想外でとてもいいものだった。

富士山見ながらゴルフできる韮崎
また、お店との距離感が近いというのもお金を払う満足感を高めてくれる。
商店街への貢献は充実感になる
買い物への考え方も変化した。
チェーン店やネットでの買い物は金銭を失うだけだが、商店街で買い物をすることは街にお金を落とす感覚がある。
通っている本屋であれば雑談の中で話題に上がった本などは迷わず買ってしまう。
このような濃淡ある関係性の積み重なりによって、都市部に感じていた孤独感を解消できているのだろう。
孤独でも面倒でもない関係性は存在する。
さらに良い関係性を目指すためにできることはまだあると思い、ローカルメディアにらレバでできる企画を考えた。
個人×ローカルメディア
関係性を個人同士が築けるようなものをやっていきたいので、下の図のような企画を考えた。
ローカルだからこそ関係性にフォーカスしたメディアだ。
そのような「人の情報」を溜めていくような企画をにらレバでやっていきたい。
終わりに
今回のイベントに対して、まちづくりに関する話は商店街に出店をしていない自分はやや縁遠いのではと感じていた。
ただ、ローカルだからこそまちとの距離は近い。
首都圏ではできないような、まちとの関係性を作ることができるのはローカルの魅力かもしれない。
退屈しないまちを求めていた私にとってはローカルへの移住は正解だった。
自分にとっていいまちを考えるには、どんな関係性を求めているかを軸にしてみるのもいいかもしれない。







