神山町の高台から韮崎のまちを一望できる温泉|武田乃郷 白山温泉

 

私は『白山温泉』の露天風呂に浸かりながら、ぼんやりと韮崎のまちを眺めるのが好きだ。

このまちで暮らし始めて約5年が経過したけれど、まさか韮崎で文章やデザインの仕事をし、韮崎市内を駆け回っているなんて、思ってもみなかった。

高台から茅ヶ岳の麓に広がるまちの景色を眺めていると、これまでお世話になった様々な人たちの顔や、多くの出来事が頭に浮かんでくる。

そして、湯をあがるときにはいつも「よし、これからも頑張るぞ」という前向きな気持ちになっているから不思議だ。

今回のよりみちでは、忙しない日々を少しだけスローダウンさせ、自分と向き合う時間を作るのに最適な場所、『武田乃郷 白山温泉』を紹介したいと思う。

大村博士が設立した『武田乃郷 白山温泉』

白山温泉外観

『武田乃郷 白山温泉』(以下:白山温泉)は、甲斐・武田信義が築城した『白山城』の麓に湧出した温泉だ。

ノーベル医学・生理学賞を受賞した大村智博士が、生まれ育った韮崎のまちへの恩返しとして2005年に設立した日帰り温泉であり、敷地内には同じく博士が市民のために設立した蕎麦屋と美術館が併設されている。

大村美術館の外観

隣接している韮崎大村美術館

この一帯は韮崎の観光地として有名だが、白山温泉には地元の常連客も多い。

内湯と露天風呂がそれぞれ一つずつというシンプルなつくりだが、毎分200リットル湧出する掛け流しのお湯の気持ちよさや、露天風呂からの眺望の素晴らしさから、県内外を問わず多くの人に愛されている。

泉質と眺めの良さがポイント

内湯の写真

玄関を入って右側の湯の浴室に足を踏み入れると、2面の大きな窓から光がふんだんに降り注ぐ内湯がある。

この明るく清潔感のある浴室で、とうとうとかけ流されるうぐいす色のお湯(低張性弱アルカリ性高温水)に浸かると、すぐに心も身体も解きほぐされていく。

露天風呂の写真

木々に囲まれ開放感のある露天風呂からは、茅ヶ岳の麓に広がる韮崎のまちが一望できる

私はこの露天風呂から見える景色が好きで、山とまちをセットで眺めたい時は昼に訪れ、夜景を楽しみたい時には夕方に訪れるようにしている。

その日の気分で「浸りたい景色」を選ぶことができるのは、韮崎市民ならではの特権だ。

露天風呂2

お風呂は1ヶ月ごとの男女入れ替え制。玄関から入って左側の湯の露天風呂は、たくさんの木々が生い茂り、なんだか隠れ家的な雰囲気があってワクワクする。

茅ヶ岳の写真

立ち上がって木々の隙間を覗くと八ヶ岳も眺めることができ、どちらの湯にもそれぞれ違った良さがある。

どちらも捨てがたいけれど、個人的にはまちを見渡せる右側がお気に入り。今月は、女性が右側、男性が左側なのでタイミングを狙って訪れてみては?

掃除が行き届いたキレイな館内

掃除が行き届いた館内の写真1

白山温泉の館内は、いつ訪れてもオープンしたてのようにピカピカだ。

担当の神谷さんにそのことを告げると、満面の笑みを浮かべて「ありがとうございます。オープンしてから16年も経っているとは思えないって、よくお客さんにも言われるんですよ」と話してくれた。

掃除が行き届いた館内の写真2

1日の終わりには毎日お湯を抜いてブラシ清掃し、毎朝スタッフが浴室や館内を一通り掃除してお客さんを出迎えている。

休館日である水曜日には、毎週6〜7名のスタッフが出勤し、隅々まで大掃除をしているそうだ。

この、おもてなしの心がたっぷり詰まった心地よい空間もまた、「白山温泉に来ると気持ちがリフレッシュする」理由の一つなのでは、と私は思っている。

温泉とともに芸術や文化も楽しめる

美術作品が並ぶ館内

この施設の廊下や大広間には、大村博士個人の持ち物である、さまざまな美術品が並んでいる。

これらも博士の「訪れる人に文化に触れて楽しんでもらいたい」という理由から提供したものであり、受付で「絵を見に来た」と告げると、入館料を払わなくても館内に入って作品を鑑賞できる。

コロナ禍の前は、博士も月に2〜3回は韮崎に帰ってきて、その度に必ずこの温泉に立ち寄っていたそうだ。

偶然博士と居合わせたら、これらの美術品に心惹かれた理由を、本人の口から聞けるかもしれない。男性は湯船で「博士と肩を並べて語り合う」なんてイベントが発生する可能性も無きにしも非ず。

そんな大村博士が設立した温泉ならではの面白さがあるのも、白山温泉の魅力ではなかろうか。

まちの観光をたのしみながら

わに塚の桜の写真

今年4月に撮影した『わに塚の桜』の写真

温泉がある神山町には、推定樹齢約330年の1本桜が見事に花を咲かせることで有名な『わに塚の桜』や、甲斐武田氏発祥の地として知られる『武田八幡宮』など、さまざまな観光スポットがある。

また、今年4月には『一般財団法人韮崎大村財団』が設立され、このエリアをさらに発展させていくための構想が進んでいるようだ。

韮崎駅から車で10分弱で辿り着くこの神山町エリアは、今後ますます面白くなっていきそうだ。

ぜひ、温泉とセットで、このエリアの散策も楽しんでもらいたい。

よりみちのかえりみち

周辺の田園風景

取材後に駐車場付近を少し散歩すると、そこには美しい田園風景が広がっていた。

よく晴れた日だったので、八ヶ岳と茅ヶ岳もしっかりと見え、とても贅沢な景色だった。(それにしてもこの二つの山はよく似ている…)

大村博士は、たびたび講演会などで「幼少期を過ごした故郷(韮崎)の環境が、土壌の微生物の研究への好奇心を大いにかきたてた」と話しているが、この景色を見たらその言葉の意味をちょっぴり理解できたような気がする。

日頃から自然の美しさを感じる機会は多いけれど、「温泉に来る」という理由をつくらない限り、こんな風にじっくりと韮崎のまちを眺め、過ごした日々や出来事を振り返る…そんなゆったりとした時間を取ることはなかった。

これからも、ふとしたときに白山温泉を訪れて、大村博士と同じように、このまちへの感謝の気持ちを忘れないようにしたい。

『白山温泉』の基本情報

武田乃郷 白山温泉

  • 所在地:山梨県韮崎市神山町鍋山1809-1
  • 開館時間:10:00〜21:00
  • 定休日:水曜日 ※水曜日が祝日の場合は営業
  • 料金:大人(中学生以上):700円、子供(3歳以上):500円
    ※おむつの取れていないお子様の入浴は不可
    ※回数券あり
  • 電話・FAX:0551-22-5050
  • HP:http://www.hakusanonsen.com/

※現在、新型コロナウイルス感染予防対策として、混雑時の入場制限・大広間と休憩所の利用中止を行なっております。