山梨の郷土料理のひとつである「吉田のうどん」は、初めて食べた人は必ずその歯応えに驚くほど、「コシが強い」で有名なうどんだ。
食いしん坊な私は、そんな食べ応えたっぷりな吉田のうどんが大好きで、発祥の地(富士吉田市)に行った時は必ず、目当ての店舗を訪ね、お腹がいっぱいになるまでうどんを堪能している。
そしてなんと嬉しいことに、韮崎にも吉田のうどんを食べられるお店がある。韮崎市役所前にある「吉田のうどん さくら」では、本場に負けないおいしさの吉田のうどんを味わうことができる。
今回のよりみちでは、おそらく私の韮崎ランチ利用回数No.1のお店でもある、大好きなさくらの麺づくりに潜入!おいしさの秘密と店主の新津さんの気になる素顔に迫った。
目次
本格的な吉田のうどんを韮崎で!さくらに来たらまずはコレ
もっちり麺がポイント!初心者も大満足の「肉うどん」
さくらの定番「肉うどん(550円)」は、煮干しの出汁がたっぷりと効いた味噌と醤油ベースのスープに、太麺がよく絡み合う逸品。
甘く煮た馬肉、歯応えの良い茹でキャベツ、スープをたっぷり吸い込む油揚げ、アクセントとなるネギとなかなか豪華なトッピングで、この組み合わせが最高においしい。
麺の硬さは吉田のうどんの中でも比較的柔らかい方で、硬い麺に慣れていない人でも食べやすいもっちり感が楽しめる。とはいえ、しっかりとした太麺なのでかなりの食べ応えがある。
卓上に用意された天かす・すりだね(赤唐辛子をベースにゴマなどを加えて油で炒めた調味料)・山椒の「三種の神器」で味変をしながら食べ進めるのがお決まりの食べ方で、自分好みにカスタマイズしながら、最後の一口まで飽きることなく楽しむことができる。
私はすりだねをたっぷりと入れて「辛い、辛い…」と言いながら食べるのが好きだ。
嬉しい半熟卵のサービスも!店主の粋な計らいに心ほっこり
毎日11:30までに来店した場合と、火曜日・水曜日に来店した場合には…なんと、半熟卵のサービスが付いてくる(50個限定)。
また、半熟卵には必ず「桜」か「ニコちゃんマーク」のいずれかが付いて出てくるので、思わず笑顔になるし、なんだか得した気分にもなる。こういった店主のサービス精神旺盛なところもまた、私がさくらに通い続ける理由だったりもする。
※ちなみにサービス時以外は、50円で追加することができる。
バラエティ豊かな変化球メニューもお試しあれ!
食べ応えアリ!冬季限定「カレーうどん」
たまに無性に食べたくなるから不思議な「カレーうどん(550円)」は、10月〜2月の期間限定メニュー。
中辛のカレーが麺にたっぷりとかかっていてボリューム満点。肉うどんにも入っている大きな油揚げがポイント。お肉は馬肉ではなく豚肉が使われている。
すべてが斬新すぎる変わり種「うどんチーノ」
「うどんチーノ(500円)」は、ペペロンチーノのようにニンニク油に麺を絡めて食べる変化球メニュー。茹でキャベツ、油揚げ、パプリカ、わかめという斬新なトッピングに、ちょい足しすれば味変できるチリソースまで付いてきたのでびっくり。(※現在はパプリカとわかめは乗せてないそう)
口にすると「これはもう、うどんチーノ(新しい料理)でしかない…」と思わずこぼれる不思議な味わいなので、ぜひ一度体験してもらいたい。
その他にもメニューには、じゃじゃうどん(550円)、肉ソースうどん(500円)など、珍しい名前が並び、ドリンクメニューにはクリームソーダ(250円)まで用意されている…!
中には、このバラエティの豊かなメニューの虜になって通っている常連さんもいるようなので、ぜひ変化球メニューにも挑戦してもらいたい。
麺づくりの現場に密着!さくらのうどんができるまで
お店に立つのは笑顔が素敵な新津さんご夫妻
さくらを営んでいるのは、新津啓介さんと清美さんご夫妻。お客さんで溢れるさくらの昼は、キッチン業務を手際良くこなす啓介さんと、いつもハキハキと明るく接客してくれる清美さんの息のあったコンビネーションが見られるのも魅力の一つ。
今回は特別に、啓介さんに麺づくりの現場を見学させていただけたので、作っている様子を順にお届けしたい。
STEP1:まずは、麺の生地づくり!分量と踏む回数がポイント
啓介さん:店が終わって片付けが済んだらまず取り掛かるのは、小麦粉と水と塩を機械で混ぜ合わせて生地をつくる作業。季節ごとに材料の分量を調節していて、暑い時期は冷やしに合わせて少し硬め、寒い時期は温かいスープに合わせて少し柔らかめになるようにしてるんだ。
窪田:年中さくらのうどんを食べていますが、季節に合わせて麺の硬さを調整していたとは…!
啓介さん:分量だけじゃなくて、踏む回数も麺の様子を見ながら変えているんだよ。こうして踏めば踏むほどに、麺にコシが出るんだ。
窪田:うどんづくりの体験教室とかでよく見かける光景ですが、本当に踏んでつくっているんですね。これを毎日やるのって、なかなか大変な作業ですよね。
啓介さん:踏んで寝かせてを何回も繰り返すから、けっこう体力が必要で大変だね。せっかくだから、ちょっとやってみる?
窪田:え、いいんですか!?
(恐る恐る麺の上へ...)わぁ!柔らかくて踏み心地が気持ちいいですね!
啓介さん:繰り返すうちにコシが出て、しっかりとした踏み心地になっていくよ。さて、麺を5分寝かす間にスープをつくっていくとしよう!
STEP2:隙間時間にスープの仕込み!味の決め手はたっぷりの煮干し
啓介さん:水1リットルに対して煮干しは50g。今日は20リットルの水でスープをつくるから、煮干しを1kg使うってことだね。
窪田:さくらのうどんのスープはしっかり煮干しの出汁が効いているなと思っていましたが、こんなに大量の煮干しを使っているんですね。
啓介さん:スープに入れる醤油はヤマサ、味噌は富士吉田の丸甲さんの2年もの。この味噌は酸味があるからスープを飲んだ後に少し酸味が感じられて、それがうまいんだよねぇ。
窪田:さくらのうどんの後味がさっぱりとしておいしいのは、この味噌のおかげなんですね。それにしてもすごい手際の良さ!分量もすべて頭に入っているんですね。
啓介さん:そりゃ毎日やってるからね。ゆっくりやってたら日が暮れちまうよ。(笑)
STEP3:寝かせた生地を裁断&しっかり伸ばして完了!
啓介さん:ちょうどいい硬さになったらこうして4つに切り分けて…ほら、ちょっとこの断面を見てみてよ。
啓介さん:きれいな断面をしてるでしょ?何回も生地を折り重ねているから100層以上になってるんだけど、これがおいしい麺にするコツなんだ。
窪田:確かに、きれいな層になっていますね。ずっしりしていて、いかにもおいしい麺ができそうです。
啓介さん:最後に打ち粉を振って、麺を伸ばしていくよ。これを袋に小分けにして冷蔵庫に入れるまでが、夕方の作業。朝は6時半には店に来て、キャベツを切ったり卵を茹でたり、卓上のセッティングなどの準備をしたらあっという間に開店時間だ。
窪田:やることがいっぱいで、目まぐるしく時間が過ぎていきそうですね。あらかじめ麺も茹でておくんですか?
啓介さん:麺は伸びるからお客さんに出す直前に茹でてる。だけど茹でるのに5分以上かかるから、注文が入ってから茹でてたら提供までに時間がかかっちゃう。短い昼休み時間に来てくれているお客さんも多くてそんなに待たせるわけにはいかないから、前日のお客さんの入り状況を参考にしながらちょうど良いタイミングを予想して茹で始めるようにしているよ。
窪田:お客さんのことを第一に考えてつくっているんですね。今はコロナの影響もあって客数も読めないだろうから大変そう…麺づくりを見学したことでその手間もわかったし、これからは今まで以上に心して食べるようにします!
吉田のうどんに魅せられて!お客さんを笑顔にする理想の麺を追求
師匠は甲府の名店「うどん旭」の店主
窪田:うどんづくりは、どこかで修行されたんですか?
啓介さん:ついこの間まで甲府にあった「うどん旭」って知ってるかな?そこの店主のやっさんがつくるうどんが美味くて「伝授してくれ」って頼んで教えてもらったんだ。
窪田:旭も美味しかったですよね。閉店してしまって残念でした。
啓介さん:うちの座敷にはやっさんの親父さんが生前に描いた作品がいくつか飾ってあるんだよ。最近、やっさんの義弟さんが、うちで修行して「佐助」っていう、うどん屋を甲府にオープンさせたから、そっちにもあった方がいいだろうと思って半分譲ったんだけどね。
窪田:あの絵は旭のお父さんの絵だったんですね。壁にいろいろ飾ってあるので、いつも気になっていました。
啓介さん:俺が描いた絵もあるし、人が撮った写真もあるし、良いと思ったものを色々詰め込んでるんだよね。少しでもお客さんに楽しんでもらえればいいなって思ってね。
元はラーメン屋!?吉田のうどんの店を始めた経緯
窪田:そもそも、なぜ吉田のうどんのお店を始めようと思ったんですか?
啓介さん:俺は東京の美術の専門学校を出て、ホテル聚楽の系列の中華料理屋で4年半くらい修行して、そのあと親父がやっていたラーメン屋に入ったんだ。当時の山梨にはまだなかった背脂系のラーメンを出してみたら、それがけっこう流行ってね。そのときのお客さんでよく来てくれていた先輩が、富士吉田のうどん文化のことを教えてくれて、食べに行こうって誘ってくれたんだよね。
窪田:そうしたら、吉田のうどんに目覚めてしまった…と?
啓介さん:初めて食べたときは、麺は硬いしスープは薄いしで、特別おいしいとは思わなかったんだけどね。だけど、先輩に連れられて何度も通ううちに、なんだかまた行きたくなって「これは一体何なんだろう?」って、どんどんのめり込んでいったんだ。
向こうは店舗も自分の家の座敷を開放してやっているようなお店が多くて、他所にはない文化があるなって感じて、そういうところも面白いなと思ったんだよね。
窪田:吉田のうどんに目覚めてからは、色々なお店を食べ歩いたんですか?
啓介さん:うどんを食べるためにわざわざ富士吉田まで行って、1日に4〜5軒は食べ歩いたね。今の体重は70kgだけど、当時は90kgもあって今よりだいぶ太ってたよ(笑)。
途中で「羽田」っていううどん屋に出会って、「ここが一番うまい」と感じてからは食べ歩くのをやめて、そこで3つ4つ替え玉をするようになった。替え玉ばっかりしてるとスープが余るから、「あんまり替え玉してもらっちゃ困るよ」なんて親父さんに言われたりしてね。今はもうない店舗だけど、あそこはうまかったなぁ…。
窪田:1日に4〜5軒!すごいですね。目指す味があるから、おいしいうどんをつくる努力ができるんですね。
啓介さん:なかなか同じ味にはならないけど、麺を研究したりするのは楽しいね。そもそも料理をつくって人に食べさせるのが好きなんだよね。いくちゃんも、ぜひまた食べに来てよ。
窪田:はい、もちろんです!今日は色々なお話を聞けて楽しかったです。ありがとうございました。
よりみちのかえりみち
帰り道は、仕込み中にスピーカーから次々と流れていたYMOや大貫妙子などの70年代ポップソングが頭から離れず口ずさみながら家に帰った。
「好きな音楽を聴けるから頑張れる」という啓介さんは、どんなに寒い日も早朝から店に来て、厳選された100曲が流れるオリジナルプレイリストを聴きながらせっせと仕込みをするらしい。
もともと料理で人を喜ばせるのが大好きで、中華料理屋やラーメン屋で働いていた経験を持ち、好きなものをとことん突き詰める性格の啓介さんが作るからこそ、あの味が出せるのかと納得だった。
とってもおいしいので、吉田のうどん好きの人にはもちろん、まだ未経験だという人にも、ぜひ一度味わってみてもらいたい。
「吉田のうどん さくら」の基本情報
- 所在地:山梨県韮崎市本町1-18-1
- 営業時間:10:40〜14:00
- 定休日:日曜日
- 電話番号:090-1734-9167
- Instagram: @udon.sakura