2021年12月15日、中央自動車道・韮崎インター近くの「農業生産法人オルタナ」という会社の敷地内に、「韮崎やきいもハウス」という焼き芋屋がオープンした。
無農薬で栽培された紅はるかを使ったお手軽サイズの焼き芋は、まるでスイートポテトのようにしっとりと甘く、子どもからお年寄りまで幅広い世代に大人気。
さらに、とろりとした半熟卵と野菜がたっぷり入ったハムカツサンドも販売しており、「ボリュームたっぷりで美味しい」と市内でも話題になっている。
この焼き芋屋が生まれた背景には、オルタナの武智社長と運営をしている若林さんの、「フードロスを減らしたい」という想いの一致があったそう。
今回のよりみちでは、「韮崎やきいもハウス」を訪ねて、店主の若林正樹さんに、お店ができるまでの経緯や販売しているメニューについて聞いてきた。
目次
なぜ農業生産法人の敷地内に、やきいもハウス?
お店に立つのは甲州市で「軽食喫茶さはんじ」を営む若林さん
窪田:今日はよろしくお願いします。まちなかで「穂坂町に焼き芋屋さんができた」という噂を聞いて、飛んできました!笑
若林さん:ありがとうございます。オープンして間もない店ですが、おかげさまで多くの方に足を運んでいただいています。ちょっとややこしいかもしれませんが、僕は「韮崎焼き芋ハウス」の他に、甲州市で「洋食喫茶さはんじ」という店を営んでいます。やきいもハウスはオルタナの武智社長と一緒にはじめたお店で、今のところ火〜木曜日のみ営業しています。
窪田:洋食喫茶さはんじのオーナーがオルタナの社長さんと一緒に始めたやきいもハウス…たしかに情報量多めですね(笑)今日は詳しくお話を聞かせていただけたらと思います!
野菜も食品加工の機械も自社でつくっている「オルタナ」
窪田:工場の敷地内に焼き芋屋があるなんて面白いですよね。オルタナさんは、どのような会社なのですか?
若林さん:オルタナさんは野菜や果物を育てながら、農作業に必要な機械や食品加工に必要な技術の研究などをしている会社です。自社で無農薬で育てた農作物を、独自に開発した技術を駆使して干し芋や干し柿などに加工し、通販や自然食品を扱うお店などで販売しています。
窪田:農業と技術開発の両方に挑戦しているなんてすごいですね。
若林さん:ちなみにオルタナさんは、日本で初めて紅はるかを干し芋づくりに用いた会社なんです。それまで知名度の低かった紅はるかが今のように人気品種になったのは、武智社長の功績だと思います。
窪田:紅はるかの伝道師なんですね!新しいことに挑戦している会社がこんな身近なところにあったとは…!
「フードロスを減らしたい」想いが一致してやきいもハウスがスタート
窪田:若林さんは、もともとオルタナの社長さんとお知り合いだったんですか?
若林さん:知人の紹介で、商品開発の相談を受けたのが武智社長との出会いでした。僕は、さはんじを食品開発のラボラトリ代わりにして、他社の商品開発のお手伝いをするフードコンサルタントの仕事もしているんです。前職がグラフィックデザイナーだったので、パッケージングなどもお手伝いもしながら、売れる商品づくりをサポートしています。
窪田:そこからなぜ、焼き芋屋を始めることになったんですか?
若林さん:武智社長にお話を聞いていく中で、小さいお芋は干し芋の商品として使えないためにどうしても廃棄になってしまうという課題があることを知りました。これから世の中が食糧難になっていくとされる中で、「フードロスを減らしていきたい」という武智社長の想いに共感し、お芋についての研究をはじめました。その結果、小さいお芋は火が通りやすくて冷めてもおいしく、焼き芋に向いているということがわかったんです。
窪田:廃棄になってしまっていたお芋が活用されるのは素晴らしいことですね。でも、店頭に立つのはコンサル業とは別の領域ですよね…?
若林さん:たまたまうちがキッチンカーを持っていたということもあり、武智社長に「来られる日はここで焼き芋屋をやってもらえないか」とお声かけいただいたんです。さはんじをやっている甲州市の大和村という場所は観光地で平日はお客さんが少なくて、ちょうどそちらでもフードロスが気になっていたところでした。なので、僕らにとっても良い機会だなと思い協力させてもらうことにしました。
寒い時期にぴったり!たっぷり蜜が詰まったホックホクな焼き芋
若林さん:焼き芋には、室温が整った部屋で約1ヶ月熟成させた小ぶりな無農薬の紅はるかを使っています。さつまいもは70〜90°くらいの状態がいちばん蜜が出るので、お芋の中がそのくらいの温度になるように設定して、3時間くらいかけてじっくりと焼き上げます。そうすることで、スイートポテトのようなしっとりと甘い焼き芋になるんです。
窪田:たしかに、中までしっとりしていて蜜がたっぷりでおいしいですね。大きな焼き芋って食べきれないことが多いので、このパクパク食べられる小ぶりサイズも嬉しいです。
若林さん:これまで廃棄していたお芋を使用しているので、1袋(約4本)380円という親しみやすい価格でご提供できるのもポイントです。1kgのボックス売りもしているので、大勢で食べる際はそちらもおすすめです。
窪田:良心的な価格で美味しい上に、無農薬で身体にも優しいなんて最高です。焼き芋は高齢関係なく、みんなで楽しめていいですよね。
焼き芋機も小屋も武智社長のオリジナル!?
若林さん:実はこの焼き芋機は、武智社長が独自開発してくださったものなんです。この機械のおかげで、お芋を美味しく焼き上げることができています。さらに、この焼き芋を販売するための小屋も、社長がDIYで建ててくれたんですよ。
窪田:さすが食材加工の機械をつくっている会社ですね!お芋から機械や小屋まで、すべて手づくりなんてすごいですね。
若林さん:僕らはここを「富士山の見える焼き芋屋さん」と言っているんですけど、この小屋から見える景色も素晴らしいんですよね。もう少し温かい季節になったら、外の席でも食事を楽しんでもらいたいなって思っています。
駅弁にもなった話題の「ハムカツサンド」
窪田:もう一つのメニューである「ハムカツサンド」についても教えてください。このとろりとした半熟卵が食欲をそそりますね!
若林さん:ハムカツサンドは、さはんじの看板メニューでもある「やみつきハムカツ」を使ったサンドイッチです。半熟の月見卵は、笛吹市八代町の養鶏場で朝取りしたものを使っていて、その他の食材も山梨県産にこだわっています。油も新鮮なものを使っているので、重くならず食べやすい味わいだと思います。
窪田:確かに、サクサクとした衣で全然脂っこくないですね!一緒にサンドされているポテトサラダも美味しいです。ボリュームも満点で、しっかりお腹を満たせそう。
若林さん:ハムカツサンドは、冬季限定で大月駅の駅弁としても販売していました。ハムカツは字に書くと「公にカツ(勝つ)」となるので、受験生への開運のお弁当として人気でした。今は新型コロナウイルスの流行のために駅での販売を休止していますが、こうしてまたお客様にご提供できる場所ができたので嬉しいです。
窪田:公にカツ!縁起がいいですね。焼き芋と合わせてハムカツも、ぜひ味わってもらいたいですね。
オルタナの商品やオリジナル調味料も販売
若林さん:小屋の横側にある棚では、オルタナさんの商品や、私たちが農家さんと共同でつくったぶどうジュースや調味料などを販売しています。どれも自信を持っておすすめできる美味しさですので、ぜひ手にとっていただけたらと思います。
「お店は通年で開けたい」今後はオリジナルスイーツの販売も!?
窪田:お店をはじめてまだ1ヶ月ほどだと思いますが、やってみて感触はいかがですか?
若林さん:ありがたいことに韮崎はお客さんの人数が多くて、日によっては行列ができたり、予約注文だけで午前中が埋まってしまうこともあります。お客さんのお人柄も良くて、温かく迎えてくださるのでとてもありがたいです。
窪田:好調なスタートが切れているんですね。冬が終わったら、焼き芋ハウスは閉まってしまうんですか?
若林さん:お店は通年で開けようと思っています。温かくなってきたら焼き芋の数量を減らして、オリジナルスイーツの販売などもおこなっていきたいです。まだどんなメニューになるかわかりませんが、例えばさつまいものアイスをブリュレしてみたり…。
窪田:それは美味しそう!新たなメニューができるのも楽しみです。また買いにきます!
よりみちのかえりみち
ホクホクで甘味たっぷりの焼き芋と、サクサクとしたハムカツサンドは、どちらも本当に美味しかった。これまで廃棄していたお芋が活用されて、生産者・販売者・お客さんと、それぞれが嬉しくなるなんて素晴らしいことだと思う。
そして、無農薬のお芋から機械、小屋まで全てがオルタナの社長さんの手づくりだというのも驚きだった。これまで何度も韮崎インターの近くを通ってオルタナさんの社屋を眺めていたけれど、こんなに面白い会社だったことを初めて知った。
「韮崎にもまだまだ知らない良いところがたくさんあるんだろうな」
青空に映える大きな富士山を眺めながら、そんなことを考えて家に帰った。
「にらさき焼き芋ハウス」基本情報
- 所在地:〒407-0003 山梨県韮崎市藤井町北下條5−5
- 営業日:火曜・水曜・木曜
- 営業時間:11:00〜17:00
- 電話番号:070-8544-8074