にらレバライター、BEEK DESIGN スタッフとして編集・デザイン業に勤しむ。元地域おこし協力隊・青少年育成プラザMiacisスタッフ。1991年生まれ。韮崎高校出身。音楽・サウナ・お寿司が大好き。
韮崎中央商店街の『アメリカヤ』の15年ぶりの復活から約1年半が経った2019年9月7日、アメリカヤ向かいの路地裏に、新たな新名所『アメリカヤ横丁』がオープンしました。
オープン日は特別に昼から横丁の営業がスタート。1日限りの『アメリカヤ縦丁』、特別昼スタートの『にらさき夜市』などのイベントも同時に開催され、この記念すべき1日のために、市内の方はもちろん、市外・県外からも大勢の人が韮崎のまちに集まりました。
集まったみんなでの乾杯の様子
今回の記事では、そんな気になるアメリカヤ横丁の様子と、アメリカヤに引き続きアメリカヤ横丁を誕生させた地域のキーパーソン・イロハクラフトの千葉健司さんへのインタビューの様子をお届けします。
横丁の誕生秘話やそこに込められた想いに加え、12月には2軒のゲストハウスが同時オープンするという気になる情報も。盛りだくさんの内容となっておりますので、ぜひ最後までお楽しみください。
『アメリカヤ横丁』ってどんなところ?
アメリカヤ横丁がオープンしたのは、元々『小坊主』という地域の人に親しまれていた居酒屋があった場所。小坊主の移転で取り壊される予定だった築70年の長屋を借りてリノベーションし、そこに市内から2店舗、市外から2店舗の計4店舗の飲食店が新たにここに店を構えました。(もう1店舗は準備中)
レトロな雰囲気がそのまま活かされ、提灯やむき出しの電球に照らされた屋外スペースでは逆さまにしたビールケースに座って乾杯することができるという、まさに昭和時代の大衆酒場にタイムスリップしたかのような場所。
まるで映画のセットのような雰囲気
路面に3店舗、右の通路から奥に進むともう2店舗
通路には提灯が並ぶ。ロゴマークは「※(コメ)=アメリカ(米)」をイメージ
看板のイラストは山梨が誇るイラストレーター小幡彩貴さんによるもの。たのしげな表情が素敵。
昔、韮崎市は物流の拠点・宿場町として栄えていましたが、時代が進むにつれて徐々にまちからは活気がなくなり、若者は市外や県外に流出し、商店街にはシャッターが目立つようになっていました。
「通ったことはあるけど立ち寄ったことはない」と言われることが多かったこのまちに、昨年アメリカヤが復活したことで、少しずつ足を運ぶ若者の姿がみられるようになりました。そして今回の横丁のオープンを経て、諦めかけていたまちの人も少しずつ、またこのまちに希望を見出せるようになってきたように感じられます。
まちが変化するきっかけを作り、常に最前線で仕掛け続けるのが、イロハクラフトの千葉さん。その活動の原動力に迫ります。
韮崎中央商店街エリアリノベーションのキーパーソン、千葉健司さん
イロハクラフト代表。韮崎高校出身。陸上の推薦で大学に入るも、昔からの夢であった建築の道に進みたいという思いが抑えきれず一年で大学を辞め、京都の専門学校に入学。26歳で一級建築士の資格を取得し、29歳で独立。壊しては建て、壊しては建てという日本の住宅再建サイクルのスピード感や、それに矛盾してこの国が空き家問題を抱えているという事実に疑問を持ち、”直す建築士”を志す。2018年4月に15年間空きビルとなっていた『アメリカヤ』を復活させたことにより、まちづくりの分野でも注目されている。
今回はアメリカヤに引き続きアメリカヤ横丁の設計を手がけた千葉さんに、にらレバ独占インタビューをさせていただきました。
「横丁は世代を超えて愛される場所になってほしい」
イロハクラフトさんのオシャレな事務所で取材(アメリカヤ4F)
窪田(以下「窪」):今日はよろしくお願いします。アメリカヤ横丁、すごく良い雰囲気ですね。
千葉(以下「千」):ありがとうございます。あの場所はアメリカヤと同じで、まちの人の思い出がいっぱい詰まった場所なんですよね。だから上の世代には「この部屋でよく飲んだよね」って思い出話に花を咲かせてもらいたいし、若い世代には昭和の活気やあたたかさを体験してもらえるような場所にしたいんです。
窪:そんな上の世代と若い世代の交流が生まれるような場所になったら更に素敵ですね。
千:そうですね。アメリカヤは「若者じゃないと入りにくい」という声もあって。本当は色々な世代の方に利用してもらいたいと思っていたんですけど、ハードルが高く感じる方もいるみたいで。それに比べて横丁はなつかしい大衆酒場の雰囲気がそのまま残っているので、気軽にフラッと立ち寄ってもらえる場所になったらいいなと思っています。
オープン日はめだか&金魚すくいも開催され、子どもも大人も夢中になって遊んだ
アメリカヤ横丁をつくろうと思った理由
窪:そもそも千葉さんはなぜアメリカヤ横丁をつくろうと思ったんですか?
千葉:アメリカヤをオープンしてみて気付いたんだけど、アメリカヤって意外とみんな早い時間に店を閉めちゃうんだよね。せっかく来てもらっても、夜楽しく過ごせる場所がないのってもったいないなと思っていて。夜が元気なまちって、活気ある感じがするじゃないですか。だから『にらさき夜市』も始めたし、次は飲んでそのまま泊まっていってもらえるようにゲストハウスをつくろうと思っているんです。
窪:取材を始めて早々、さっそく重要な情報が飛び出しました。噂には聞いていますが、そのゲストハウスのお話、もう少し詳しく教えてもらってもいいですか?
今年12月にはゲストハウス2軒が同時OPEN!
ゲストハウスになる予定のビル①
ゲストハウスになる予定のビル②
千:この商店街にある二つの空きビルをうちでリノベーションして、ゲストハウスにする予定です。12月19日に2店舗同時にオープンするということも決まっています。
chaho(茶舗)は一泊からの短期滞在者向けで、山登りに来る人をターゲットに山に特化した新しいゲストハウスにしようと思っています。みよしビルの方は長期滞在者向け。例えば韮崎は製造業が盛んだから、出張や転勤でこっちに来る人が結構多いですよね。そんな方に便利に使ってもらえたらいいなと思っています。
窪:たのしみですね!!妄想空き家マーケットで使ったあの『茶舗』が、こんなに早く活用されることになるなんて。
千:やりたいことを口に出し続けることって大切ですよね。
次々とやりたいことが実現できているのは「たまたま」!?
窪:イロハさんはすごい勢いで商店街のリノベーションをしてると思うんですけど、どうしたらそんなに次々と行動を起こせるんですか?
千:これはたまたまなんですよ。色々と必然的なことが重なって。始めはもっとゆっくりやっていくつもりだったんですけどね(笑)
例えば横丁は、小坊主が移転して取り壊してしまうという噂が耳に入ってきたんです。あんなに良い建物を取り壊すなんて絶対にもったいないと思って、オーナーさんのところに3回通って「壊れたら全部自分たちで直すので」と説得して、なんとか貸してもらえることになって。そうしたら「じゃあまた来年」なんて言ってられないから、すぐやることになりました。
昼の横丁の様子(オープン前)
窪:なるほど。ゲストハウスの方もかなり急ピッチですよね?
千:そうですね。妄想空き家マーケットをやった頃からずっと茶舗はゲストハウスにしたいと思っていて。そう言い続けていたら、甲州夢小路の丹沢会長が韮崎にいらっしゃったときにこのまちを気に入っていただけたみたいで、茶舗を購入してビルオーナーになっていただけるという話になったんです。改修はうちでやって、運営は甲府のバッカスというゲストハウスにお願いすることにしました。
窪:強力なサポーターが現れたわけですね。みよしビルの改修決定もかなり早かったですよね?
千:そうですね。ビルが売りに出される前に、たまたま商店街をウロウロと歩いていたら片付けをしているのを目撃して。「ここもう使わないんですか?」って聞いたら、運営の方の体調不良で旅館を続けられなくなったのだと伺いました。丹沢さんに報告をしたらすぐに「そっちも買おう」と言うことになって、2店舗同時に進めることになったんです。
窪:たしかに、必然としか言いようがないような「たまたま」が重なっていますね。引き寄せているとしか思えないですね。
「まちづくりなんて考えてなかったけど、喜んでもらえるのが嬉しくて」
事務所には多くの表彰状や感謝状がならぶ
2018年にはアメリカヤの取り組みでリノベーションオブザイヤー特別賞「地域再生リノベーション賞」を受賞
窪:千葉さんはもともとエリアリノベーションに興味があったんですか?
千:いや、今思えば全然ですね。(笑)アメリカヤを始めたときは、アメリカヤという一つの建物のことしか考えていなかったです。
でもアメリカヤをやってみて、こんなに喜んでくれる人がいるんだって正直びっくりしたんですね。商店街の人、韮崎に住む人、中に入ってくれた店舗のみなさんもそうですが、みんなが喜んでくれるのがすごく嬉しくて。「だったらあれもできるじゃん、これもやったらいいじゃん」ってどんどんやりたいことが増えていきました。
窪:きっかけはアメリカヤだったんですね。
千:この辺は田舎だから、韮崎高校の出身というだけで、「俺の後輩じゃねえか」って応援してくれる人もすごく多くて。都会だときっとこの温かさは感じられないですよね。ここだと応援してもらえるからがんばれるんです。
窪:今や千葉さんに「韮崎でお店をやりたい」と相談してくる人もかなり多くなってきてますよね。
千:そうですね。相談に来てくれた人に良い場所を紹介できるようにしておくために、よくまちを歩き回って良い建物を探しています。アメリカヤに事務所を移してからは、このテラスからまちを眺めて「あそこ見に行ってみようかな」って考えたりすることも多くなりました。
テラスから見渡せる韮崎の街並み
窪:もはや不動産屋ですね(笑)ここだと物理的に色々な建物が目に入ってきますもんね。
千:うちは不動産屋さんじゃないからそういうのを専門的にやる人が現れてくれたら嬉しいなって思っています。
本業との両立、ぶっちゃけ大変なのでは?
窪:当たり前の質問なんですけど、イロハさんって家もつくってるんですよね?(笑)
千:もちろんつくってますよ。(笑)住宅と店舗の割合が半々くらいで、新築とリノベーション案件合わせて年間30件くらいかな。
窪:実は夜市の実行員のメンバーでお酒を飲んだ帰り道に、「全部やめたくなることもある」って千葉さんが言っていたのが記憶に残っています。覚えてますか?
千:そんなこと言ったかな・・・でも言うかもしれないですね。(笑)確かに色々やっていると大変なこともあります。自分たちで始めたことが忙しすぎて本業に支障が出ると元も子もなくなってしまうので、それは避けたいと思ってますね。それにうちはハードをつくる専門家なので、ソフト(コミュニティ)をつくるのは得意なわけじゃないんですよね。本当に多くの人の力を借りて、こういう新たな取り組みができているんだと感じています。
千:アメリカヤも横丁も、できてしまえば安心できるんですけど、できあがるまではやっぱり不安も大きくて。色々な意見も耳に入ってきますし。
窪:その不安はどうやって乗り越えてるんですか?
千:あんまり考え込み過ぎないようにしています。
窪:大事なことですね(笑)これからもプレッシャーに負けずガンガンやっていって欲しいです。
千:若い人たちでやってかないとね。みんなでがんばりましょう。
窪:そうですね、がんばっていきましょう!
身近な人を笑顔にするところからまちづくりは始まる
最後に千葉さんは、アメリカヤと横丁の図面を見せてくれました。
千葉さんの作業デスク
昔の図面は残っていないため、全部測りなおしてCADで図面に落とし込み、耐震構造の計算をして、また使えるように改修をしていく。そんな地道な作業があった上で、華やかなオープン日が迎えられているのだということを実感しました。
CADで描き起こしたアメリカヤと横丁の図面
”やってみたらみんなに喜んでもらえてやりたいことがどんどん増えていった”
千葉さんが経験したこの流れは、まちづくりをしていく上でとても大切なことだと思います。まずは自分のやりたいことに挑戦してみることで、そこにおもしろい人や様々な必然が集まってくるようになる。はじめから”まちづくり”を意識しなくても、身近な人を笑顔にしていくとこが、結果的にまちづくりに繋がっていくのです。
「自分たちで誇れるまちをつくっていきたい」
そう語る千葉さんの口調は穏やかではありますが、そこにはまっすぐとした意思が感じられました。きっとこれから韮崎のまちはもっとおもしろくなっていくでしょう。新たなプレーヤーも募集中。
まずはぜひ出来立てのスポット『アメリカヤ横丁』を訪ねて、思いっきりこのまちをたのしんでみてください。
昨年は『アメリカヤビル』で特別賞「地域再生リノベーション賞」を受賞したリノベーションオブザイヤー。今年は『アメリカヤ横丁』でエントリーしているそうです!
目指すは総合グランプリ!
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